オムロンの"標高10mのIoT"は製造現場を明るく照らすか(前編)

コンテンツ提供:MONOist

オムロンは2015年9月29日、「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)時代のFA(Factory Automation)」をテーマに記者会見を開催。IoTにより市場の変革が進む中、同社が目指すIoT活用と、製造現場における将来ビジョンなどを示した。また、その自社実践として展開する製造現場の様子などを紹介した。本稿では前編でオムロンのビジョンを、後編で自社実践を行う製造現場とその効果について紹介したい。

製造業革新に貢献する3つの技術

ドイツのインダストリー4.0や米国のインダストリアルインターネットコンソーシアムなど、IoTを含むICTによる製造業革新に取り組む動きが拡大している。従来は低い人件費による人海戦術に頼ってきた中国なども製造業強化の国家戦略「中国製造2025」を打ち出し、その中で「ITと工業の融合」をテーマに挙げ、同様の取り組みを加速させる動きを示している。これらの国家政策としてのモノづくり革新の動きが広がりを見せる中、この流れを見据えてどう取り込んでいくかということを考えていかなければならない。

現在の製造業を取り巻く変化の動きに対し「チャンスだととらえている」と語るのがオムロンだ。

オムロン 執行役員で商品事業本部長の池添貴司氏

オムロン 執行役員で商品事業本部長の池添貴司氏

オムロンは、センサーやリレー、コントローラーなど工場のオートメーション関連技術の主要企業である。新たな流れに対し、オムロン 執行役員で商品事業本部長の池添貴司氏は「現在の製造業を取り巻く市場環境は3つのトレンドによって動いている。1つが『モノづくりの高度化・複雑化』、2つ目が『グローバル生産の定着』、3つ目が人手不足などを含む『作る人の変化』だ。これらの変化に対し、技術的に効果的に対応できるものが出そろってきていることが革新の動きにつながっている」と述べる。

その革新の中でポイントになる技術が、ビッグデータを中心とする「ICT(情報通信技術)」、小型化やローコスト化が進む「ロボティクス」、「AI(人工知能)」の存在だという。

「高度化やグローバル化、人手不足の問題など、モノづくりにおけるニーズは以前からあったものだ。これらがICTやロボティクス、AIの進化により、解決できる可能性が生まれてきた。オムロンは、製造現場の制御に関わる幅広い機器を提供する世界でもユニークなポジションにある。これらの技術進化を取り込み、オムロン自らの工場などで自社実践し、最適な価値を提供できるソリューションを構築することで、多くの製造現場にとって効果のある新たな価値を提供できる」と池添氏は述べている。

では、製造業革新の時代に、具体的にオムロンではどのような取り組みで提案を進めていくのだろうか。

インダストリー4.0が目指す3つのポイント

ドイツのモノづくり革新プロジェクトである「インダストリー4.0」が火を付けた製造業革新の動きだが、その目指すところは「スマートファクトリー」の実現だとされている。オムロンでは、このスマートファクトリーで実現が期待されているポイントとして以下の3点を挙げる。

1. 効率の向上
2. Time to market
3. Production on Demand

既にインダストリー4.0やその他の活動でも指摘されているが、これらのポイントを抜本的に向上するために必要となるのが「サイバーフィジカルシステム(Cyber Phisical System(CPS)」である。サイバーフィジカルシステムとは、現実の世界の情報を、サイバー空間に取り込み、コンピューティングパワーを活用して分析し、そこで得られた最適な結果を、現実の世界にフィードバックするというシステムのことだ。

この実現のためには、サプライチェーンのデータ基盤を統合する「情報の水平統合」と、自社内で製造現場のセンサーや制御システムなどから上流の基幹システムまでを結ぶ「情報の垂直統合」、仮想や現実の世界の統合などが必要だといわれている。

"四現主義"を超える

オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 企画室長の大塚隆史氏

オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー
商品事業本部 企画室長の大塚隆史氏

オムロンは「"四現主義"を超える」を掲げて、これらに取り組む。同社インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー商品事業本部 企画室長の大塚隆史氏は「製造現場では『現場』『現物』『現実』という『三現主義』がよく使われるが、オムロンではこれに『現在』を加えた"四現主義"というものを訴えている。現在、過去、未来という時間軸を示すものだ。この"四現"に縛られないモノづくりを実現することが製造革新の価値だといえる」と述べる。

例えば、情報システムの水平統合を実現することで、日本から海外の工場の様子をリアルタイムで確認し、改善活動などを行えるようになる。これは「現場を超える」ということを実現する。また、IoTによってデータを取得し製造機械などの故障を予知する予防保全などであれば「現在を超える」ということを意味する。

オムロンが考えるIoT/インダストリー4.0時代に求められるキーテクノロジー

オムロンが考えるIoT/インダストリー4.0時代に求められるキーテクノロジー

1970年から提唱する「SINIC理論」

オムロンでは、1970年に社会と科学、技術は相関性を持って変化するということを説明する未来予測論「SINIC理論」を提唱。現在も経営の羅針盤として使い続けている。SINIC理論のSINICは「種(Seed)」「革新(Innovation)」「必要性(Need)」「刺激(Impetus)」「円環的発展(Cyclic Evolution)」の頭文字で構成された造語である。同理論が提唱されて既に45年になるが、現在の社会や技術の変化を的確に言い当てている。大塚氏は「SINIC理論で見た場合、現在は『最適化社会』に当たる。これは人間と機械が理想的に調和した社会を示している。人とロボット・機械が共に働く製造現場の実現を目指す」と語る。

オムロンの「SINIC理論」

オムロンの「SINIC理論」

今後、高速・高精度・情報化による加工系機械の進化と、人と機械との協調による新たなオートメーションの創出、という2つの方向性で「オートメーションの進化」が起こるとオムロンは予想する。

オムロンが目指す3つの"i"

オムロンでは、オートメーションの方向性の中で「3つの"i"」を実現する技術革新を目指す。3つの"i"とは以下の3つの方向性である。

1. 制御革新(intelligence)
2. 情報革新(information)
3. 人と機械の協調(interaction)

これらにより、制御革新により機械の生産性向上を実現するとともに、情報の活用による生産性向上と品質向上、人と機械の協調による安全・安心や新たなオートメーションの実現、などに取り組んでいく。

これらの実現を目指し、M&Aや提携などを積極的に進めている。既に2014年4月からマイクロソフトや富士通と提携した実証実験を進めている他、2015年7月にはモーション制御機器メーカーであるデルタ タウ データシステムズの買収を発表。さらに2015年9月には産業用ロボットメーカーであるアデプトテクノロジーの買収も発表しており、積極的なポートフォリオ拡大を進めている。また、2014年12月にはロボットベンチャーのサイバーダインとの事業提携なども行っており、"人間"領域のオートメーション化への布石なども打っている。

標高10m領域で強みを発揮

ただ、いくらポートフォリオの拡張を図っても、ICTから製造現場まで全てを自社で賄うことはできない。それではオムロンの強みはどこにあるのだろうか。

大塚氏は「オムロンの強みは"標高10m以下の世界"にある」と強調する。生産現場を支える仕組みを高度に例えるとすると、ITベンダーが取り組む基幹系や上位系のシステムは現場を俯瞰して見る高度100mの世界となる。現場の情報を取りまとめ上位系システムとの連携を実現する産業用PCレベルの高さを10mレベルとすると、センサーや製造装置の現場が0~1mとなる。これらの10m以下の領域で強みを発揮するのがオムロンというわけだ。「これ以上の上流の領域についてはパートナー企業との協業や共同開発などを行い、全体のソリューションを構築していく」(大塚氏)。

20151001_06.jpg

情報化時代におけるオムロンの注力領域

オムロンでは自社が展開する製品について「ILO+S」(Input、Logic、Output、Safety)と位置付けていたが、今後は買収した産業用ロボットも含めた「ILO+S+R」での製品展開を推進。"標高10m以下"のこれらの製品群の情報化を進め、製造現場の革新を推し進めていく。その一環として新たにセンサー製品の「IO-LINK」対応を進める。IO-LINKは国際標準規格IEC 61131-9で規定されたセンサーとアクチュエーター通信のための標準化技術だ。現在、欧米メーカーを中心にグローバルで対応製品が拡大しているという。

オムロンの製品展開

オムロンの製品展開

これにより、最終的に2020年までに全てのFA製品のIoT化を進める方針だ。「まずは近接スイッチと光電センサーでIO-LINK対応を進める。早い製品では2016~2017年に製品として登場する見込みだ」と大塚氏は述べている。

前編では、オムロンが製造業革新の動きをどう捉え、どういう戦略を取るのかという点を紹介した。後編では、これらの革新の動きを取り込むために自社工場で行う取り組みについて紹介する。

関連リンク