お客様とのパートナーシップでニューノーマルな暮らしを支える「非接触」で、安全・安心な暮らしを実現 ~コロナ禍での非接触ハイブリッドエレベータースイッチ開発にかけた想い~

新型コロナウイルス感染症拡大によって、私たちの暮らしは大きく変化しました。とりわけ顕著なのが、あらゆる生活シーンにおける"非接触"でしょう。オムロンは、人が直接モノに触れることなく操作できるセンシング技術でニューノーマル時代の暮らしを支えています。エレベーターの操作ボタンもその一つです。オムロンは、エレベーター・エスカレーターのリーディングカンパニーであるフジテックとともにボタンに「さわらず」エレベーターを操作できる「非接触ハイブリッドエレベータースイッチ」(「プッシュ式ボタン一体型」の非接触ボタン)を世に先駆けて生み出しました。
今回は、フジテック、オムロンの開発者に、まだ世の中にない商品をカタチにするまでの道のりと開発に懸けた想いを聞きました。

 

非接触センサーと押しボタンを両立した、非接触ボタンを開発

2020年12月、フジテックは、タッチレスでエレベーターを操作できる「プッシュ式ボタン一体型」の非接触ボタンを発表しました。同非接触ボタンは、ボタンの上に手をかざすと赤外線センサーが検知、反応する「非接触センサー」と、従来通りの「プッシュ式ボタン」の両方の機能も持つ「ハイブリッド型」が特徴。誰にとっても使いやすい「ユニバーサルデザイン」を実現しました。
フジテックと共にこの非接触・接触のハイブリッドスイッチを開発したのが、オムロンです。

「『新しいタッチレスエレベータースイッチの開発を考えています』と、フジテック様から依頼を受けたのは、2020年6月初旬のことでした。コロナ禍での新たな社会ニーズに一刻も早く応えるため、できるだけ短期間で開発したい。そんなフジテック様の熱意に触れ、『ぜひ、カタチにしたい』と思ったのが始まりです。当社は、スイッチとセンサーの両方の技術を持っています。その強みを存分に発揮できると思いました。」と、オムロン電子部品事業部 モジュール開発部の河合 肇は振り返ります。

311_2.jpgオムロン電子部品事業部 モジュール開発部の河合 肇

「オムロンさんにはこれまで20年以上にわたって電子部品を提供していただいており、その品質に高い信頼を置いていました。それに加えて、センサー技術を持っていることも、今回の開発には欠かせないと思いました。」フジテック研究開発本部 UXイノベ―ジョン部の萩澤 則克氏はオムロンに依頼した理由をこう語ります。こうして2社が手を携え、2020年6月、開発がスタートを切りました。

311_3.jpgフジテック研究開発本部 UXイノベーション部の萩澤 則克氏

 

技術の「組み合わせ」で実現したセンサーとスイッチの一体型・コンパクト化

「誤操作をおこすことなく、すべての人にとって使いやすいユニバーサルデザインであること。当社の既設のエレベーターにも標準装備できること。そして、高層ビル含めてあらゆる建物でも使えるようにするこの三つをかなえる新しいタッチレススイッチを目指しました。」と萩澤氏は当初をふり返ります。
フジテックがタッチレスでエレベーターの操作ができる非接触ボタンの開発に着手したのは、約5年前。2020年4月には業界初の非接触ボタンを市場に送り出しましたが、コロナ禍を経て、今後さらに広く普及させていくためには、課題が残っていました。

311_4.jpg「プッシュ式ボタン一体型」非接触ボタンが商品化される前の非接触ボタン方式

「目の不自由な方も含めて、誰にとっても使いやすくするためには、非接触センサーだけでなく、従来通りの押しボタンも必要です。しかし既存の非接触ボタンは、プッシュ式ボタンの横に非接触センサーを配置した構造のため、操作盤にボタンを一列しか並べられず、最大でも6階層分にしか対応できないという課題がありました。既設のエレベーターで取り換え可能にするためにも、当社標準の操作盤と同じ間隔、同じスペースに収まる形・サイズのスイッチを開発する必要がありました。」とフジテック研究開発本部 UXイノベ―ジョン部の松岡洋平氏は説明します。

311_5.jpgフジテック研究開発本部 UXイノベ―ジョン部の松岡 洋平氏

この課題を解決するために考え出されたのが、従来の操作ボタンと同じスペースに非接触センサーとプッシュ式スイッチの両方を組み込んだ「プッシュ式ボタン一体型」の非接触ボタンです。しかし、その開発には多くの困難が待ち受けていました。

最初の壁は、省スペースで「一体型」を実現することでした。直径3.5cmという小さい円盤状のスペース内に、プッシュ式スイッチの構造を残しつつ、さらに非接触センサーを組み込む必要があります。「設計の自由度が限られている中で、非接触センサーとレンズをどう配置するか。スイッチの開発チームと連携してアイデアを出し合い、知恵を絞りました。」とオムロン電子部品事業部 モジュール開発部の柿本直也は語ります。
「オムロンはリレー、スイッチ、センサーなど多岐にわたる電子部品をグローバルで提供しています。非接触ボタンの開発にあたっては、"スイッチ開発チームのメカ設計技術*¹"と"センサー開発チームの光学設計技術*²"の強みを掛け合わせることで、一体型・コンパクト化に成功しました。品質・耐久性を維持しつつ、多彩な機能を1ユニットにパッケージ化させることで、お客様製品にさらなる価値を提供する、電子部品事業の強みを最大限に発揮してソリューションを導き出せたと思っています。」(柿本)

311_6.jpgオムロン電子部品事業部 モジュール開発部の柿本 直也

*¹ メカ設計技術:部品を設計する際に、部品が動作するメカニズム(仕組み)をもとに、設計を行う技術。
*² 光学設計技術:センサーのセンシング機能を高めるために必要となる、レンズを設計する技術。製品の目的により、使用するレンズの材質や枚数・形状が異なるため、光の反射などのテストを繰り返しながら製品に適したレンズを設計する。

 

150人以上の感覚で「使いやすさ」を追求、250個以上の試作サンプルで検討

もう一つの大きな壁は、誤操作を防ぐことでした。意図せずにボタンに触れたり、操作盤の近くに立ったりするだけでセンサーが反応してしまう誤操作をどうやって防げばいいのか。難局を打破したのは、オムロンのセンシング技術でした。「センサーが反応するのはボタンからの距離が1cm~5cmの限定されたエリアになるように設計。人や物がボタンに近づきすぎても、離れすぎてもセンサーは反応しないように要となる光学設計技術で誤操作を防ぐようにしました。」(柿本)

オムロンが技術開発に取り組む一方で、フジテックでは、センサーで検出すべき最適なエリアを導き出し、仕様の作成が進められました。
「研究開発本部のメンバーはもちろん、営業担当者も動員し150人以上で、"使いやすさ"にこだわった試験、検討を繰り返しました。操作する意思のある行動と偶発的に近づいた行動の違いを人間工学的に考え、最適な検出エリア・感度を探りました。また、一般にセンサーを操作する場合、利用者は手をかざしてしばらく時間を置きますが、今回の非接触ボタンは、エレベーターのボタンを押すようなより早い動きで操作される傾向があり、それに合わせてセンサーの俊敏性も追求しました。」と松岡氏は苦労を明かします。

試験結果をもとにオムロンがサンプルを試作し、それをフジテックが試験・評価。それをもとにセンサーの位置や感度の微調整が繰り返されました。3ヵ月間で作られたサンプル数は250個以上にも及びました。

311_7.jpgデモ機で、評価をしている様子
(左から、フジテック 松岡氏、萩澤氏、オムロン 河合、柿本)

 

社会のニーズに応える新しい製品を生み出した喜びを実感

開発が始まってから半年後の2020年12月、通常1年以上はかかる開発期間を大幅に短縮し、ついに新タイプの「非接触ボタン」が完成しました。

これほどスピーディーに開発できた理由を河合は「フジテック様との信頼関係とパートナーシップ、そしてこれまで培ってきたセンサー、スイッチの技術力を結集したことで完成できた」と語ります。「我々を信用し、胸襟を開いて『一緒にやりましょう』と言っていただけたことが大きかったです。開発途中で課題やリスクが生じた時にも、その都度率直にフジテック様に伝えて共有し、迅速に判断していただいたことで、前もって対策を講じていく、ここがポイントだったと思います。コロナ禍ながらも、オンラインでのテレビ会議を頻繁に行い、タイムリーに両社で課題を解決していきました。」

一方萩澤氏も「頻繫に技術交流を行い、今までにないスピード感で濃密なコミュニケーションを取っていけたこと、それによって企業の壁を超えて一つになって開発を進めることができました。」と信頼をにじませました。
完成から3か月後の2021年2月には、東京都にある複合商業施設GINZA PLACEに導入されました。その後もさまざまな建物のエレベーターへの導入が進んでいます。
「「プッシュ式ボタン一体型」の非接触ボタンは、今まで押して操作するのが当たり前だったエレベータースイッチの概念を根底から変えるものです。これまで世になかったものを生み出したことに、大きな達成感を感じています。」と松岡氏は語ります。「非接触ボタンは、ボタンに触れたくないという心理的障壁を技術とデザインで解決したとして、グッドデザイン賞を受賞しました。オムロン様との協業の証です。非接触ボタンをこれからのエレベーターの『ニューノーマル』として、定着させていきたい。それだけ価値ある商品だと自信を持っています。今後、当社のすべてのエレベーターへの標準装備を目指していく。」と萩澤氏は強い思いを明かしました。

「『非接触』という社会の新たな課題を解決する最初の商品に携われたことを嬉しく思っています。何より実際にエレベーターを使って喜ぶ人の顔を見られることが嬉しいです。」と河合は笑顔で語りました。
オムロンは、今後もコア技術に磨きをかけるとともに、「非接触」のアプリケーションを開発し、多様な分野にソリューションを提供していきます。お客様と共に力を合わせ、社会的課題の解決にチャレンジしていきます。

311_8.jpg開発メンバー 一同
(左から: フジテック 松岡氏、萩澤氏、オムロン 河合、柿本)

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