オムロンユニークな企業理念経営で社会的課題に真正面から取り組む オムロンESG説明会レポート

「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」――。
オムロンのこの社憲が創業者の立石一真氏によって制定されたのは、1959年のこと。以来、同社は社会の役に立つために企業は存在するという「公器性」と、先駆けとなってイノベーションに挑戦し、よりよい社会を実現するという決意をもって事業に取り組んでいます。

コロナ禍のこの1年間、過去60年間以上に渡って、同社で受け継いできた志(こころざし)はどのような形で表出し、エネルギー問題や環境、気候変動という大きな課題への取り組みはどのように進んでいるのでしょうか。3月1日に開催したオムロンの2020年度 ESG説明会では、同社のサステナビリティの取り組みは、企業理念の実践そのものであることを伝えた上で、「オムロンユニークな企業理念経営があるからこそ、クライシスにおいてもグローバル社員が事業を通じた社会的課題の解決という使命に真正面から取り組むことができた」と力強い報告がされました。サステナブル・ブランド ジャパン編集局がレポートします。

受け継いだ精神、コロナ禍で実践

コロナ禍での企業理念実践の事例を紹介したのは執行役員 グローバルインベスター&ブランドコミュニケーション本部長の井垣勉氏。昨年4月、イタリア全土でロックダウンが実施される中、オムロンイタリアのヘルスケア事業は政府の許可を受けて事業を継続していました。人工呼吸器の患者が増加傾向を見せる中、医療用吸引器の供給が不足するリスクをいち早く捉えた彼らは、現場の判断で医療用吸引器の増産に踏み切りました。混乱の中でも供給責任を果たし続けたエピソードです。

またコロナ禍で建物内の除菌や消毒作業の需要が高まっていますが、これらの作業には2次感染のリスクが付きまといます。この社会的課題に着目したポーランドの制御機器事業を担うある社員は、自社のモバイルロボットの特性を生かして紫外線照射ロボットを新たに生み出しました。建物内での作業を無人化し、2次感染リスクの低減に大きく貢献したこのロボットのソリューションは今では、フランスやメキシコ、韓国など世界中の10カ国以上で導入されています。

これらの自発的で挑戦的な取り組みの根底にはもちろん「Our Mission」として受け継がれる社憲や「Our Values」として定められる同社の価値観、つまり企業理念があります。しかしそれをただ掲げているだけでは、なかなか行動に現れません。オムロンでは企業理念をベースとして経営のスタンスを定め、業務執行の制度、運営にその理念を落とし込んでいます。

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オムロンの企業理念

具体的には、長期的な視点の経営の実践、グローバルで一貫したポリシーによる誠実で透明性の高い経営の実践、そしてステークホルダーとともに経営を進めるステークホルダーエンゲージメントの3つを柱にしたスタンスで経営を行っています。井垣氏は「オムロンが、ESG 情報の開示を含めてステークホルダーとの対話に注力しているのは、この経営のスタンスで『全てのステークホルダーとの責任ある対話を行い、強固な信頼関係を構築する』ことを明確に位置づけているため」と説明しました。

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2つの側面から加速する環境への取り組み

次に井垣氏はESGの「E(Environment)」、オムロンの環境への取り組みについて話しました。その特徴は中期経営計画(VG2.0)で業績目標と事業戦略、サステナビリティ目標を連鎖させ、一体として運営していることだといいます。オムロンでは企業理念に基づいて、環境ビジョン「グリーンオムロン2020」を構築しています。

「『Our Mission』で述べられているよりよい社会とは、持続可能な社会そのもの。具体的には『脱炭素社会』『循環型社会』『自然共生社会』が実現されている姿です」と井垣氏。パリ協定を受けて2018年に「オムロン カーボンゼロ」を設定し、同時にSBT(科学的整合性のある二酸化炭素削減目標)イニシアチブに参画しました。さらに2019年にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明。その枠組みを活用した取り組みを進めています。
井垣氏の説明によれば、オムロンの環境アクションは、社会に有用な商品やサービスの提供を通じた環境貢献と、事業活動全体での環境負荷低減という2つのアクションから成り立っています。例えば太陽光発電に必要なパワーコンディショナなどの製品の提供拡大、そして自社工場のオペレーション上での省エネ、効率化などです。これらの両側面からアクションを起こしていることが特徴です。

環境マネジメントに関してくわしくはこちらから

再生可能エネルギー活用、エリア単位の効率化へ

社会で再生可能エネルギーの利用が拡大することに事業面で貢献しているのが、オムロンのエネルギーソリューション事業です。ESG説明会で詳細を報告したのはオムロン ソーシアルソリューションズ株式会社のエネルギーソリューション事業本部長の立石泰輔氏。
オムロンのエネルギーソリューション事業は、創業翌年の1934年に工場や施設の電源を自然災害などから守る保護継電器という部品を発売したことから始まり、現在まで85年以上も継続しています。

「パワコン」と呼ばれる太陽光発電用の電力変換器を発売したのは1994年のことです。さらに社会課題解決領域のメインであるエネルギー事業の強化を目的として、環境事業本部と社会システム事業を担うオムロンソーシアルソリューションズグループを2020年に統合。それぞれの強みを生かし、シナジーを生み出すことで環境貢献を推し進める狙いです。

立石氏は「2020年度をゴールとしたサステナビリティ目標の進捗については(今後)コロナ収束と共に市場は再び活性化するとみています。再生可能エネルギーや蓄電システムのニーズは年々高まっており、拡大が見込まれています」と報告しました。

日本では人口減少や省エネなどによってエネルギー消費量は全体として減少傾向にある一方で、電化が進むことによって電力エネルギーの需要は再拡大すると考えられています。そこでCO2排出量の抑制という観点から、太陽光発電や風力発電といった再エネを活用した分散型の発電・蓄電が重要になっていくというわけです。

オムロンのエネルギーソリューション事業が目指すビジョンは「エネルギーの最適化で次世代のための循環型社会の実現」だと立石氏は解説しました。その実現のために有効なのが、地域や区域全体でエネルギーを考え、コントロールするエリアエネルギーマネジメントです。

例えば、オムロンは京都府宮津市と包括連携協定を結び、耕作放棄地など休耕地に太陽光発電システムを導入するなど、自治体や商業施設と連携し、エネルギーを最適化しながら地域の防災や減災などに貢献しています。

もちろん、エリアエネルギーマネジメントを現実にするには技術のイノベーションも必要です。その時々で最適な需給状態を実現するためにエネルギーの制御をしなければならないわけです。離れた場所での発電を企業などに使用するための自己託送システムや、充電、放電をコントロールし、災害時などの電力確保だけでなくコスト低減にも貢献する大型蓄電池システムの利用などに、オムロングループの技術が発揮されています。

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気候変動タスクフォースに賛同、評価高まる

前述のように、オムロンは早い年代から環境問題に取り組んできた先進企業のひとつと言えます。「特に2011年からの10年間は、気候変動の対応についてオムロンが大きく進化しました」と話したのはサステナビリティ推進室長の劉越氏。そのポイントは3つあるといいます。

1つ目は2011年にスタートした長期ビジョン「VG(Value Generation)2020」。そして2018年にパリ協定を契機に掲げた「オムロン カーボンゼロ」。最後に、2019年、TCFDに賛同したことです。外部からの評価は近年特に目覚ましく、CDP 気候変動では2年連続でAマイナス評価を獲得。さらに気候変動を含んだサステナビリティ取り組みの評価であるエコバディスにおいても、上位1 %となるプラチナを今年度初めて獲得しました。劉氏はポイントの一つTCFDで推奨されている「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4点に沿ってオムロンの気候変動の取り組みを報告しました。
中でも、今年の進化点として、上記エネルギーソリューション事業を題材に実施したシナリオ分析結果を説明しました。シナリオ分析とは、事業のリスクや機会を分析し中長期の見通しや新規ビジネス展開を検討するために実施するもので、オムロンがさらに積極的に将来にわたって気候変動課題に事業を通じて貢献していく姿勢が示されました。
また、2050年度に排出量ゼロを目指す「カーボンゼロ」の取り組みの途中経過として、徹底した省エネと再生可能エネルギーを活用した使用電力のクリーン化により、2020年度には温室効果ガス排出量が2016年度比51%減となる見込みであることも報告されました。

TCFDに基づく気候変動関連の情報開示についてはこちらから

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オムロンユニークな企業理念経営を力に

さらにESG説明会では、オムロンが設定した各目標の進捗についての報告もありました。サステナビリティ重要課題と位置付ける「温室効果ガス排出削減」「化学物質の適正な管理と削減」、環境ビジョン目標の「廃棄物の削減」「大気・水・土壌汚染の防止」「水資源の有効活用」「環境マネジメントの促進」の6項目について、2019年度実績、2020年度目標はいずれも「計画通り」に進行していると評価しています。

劉氏はESG説明会を次の言葉で締めくくりました。

「お話してきたように、オムロンの企業理念経営はグローバルに浸透し、進化し続けています。オムロンユニークな企業理念経営があるからこそ、コロナのようなクライシスにおいてもグローバル社員が事業を通じた社会的課題の解決という使命に真正面から取り組むことができたのです。オムロンは、事業を通じて社会的課題を解決することにより、経済的価値と環境価値、社会的価値を創出し続け、持続的な企業価値の向上を実現していきます。」

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