地域共生型のMaaS「meemo(ミーモ)」で「おともだちとお茶しにいってくるわ」 ~移動支援アプリが人と人のこころをつなぐ~

日本の地方都市では、少子高齢化や地域経済の停滞、地域コミュニティの弱体化などの環境の変化を受けて、街に新たな魅力を持たせようとする動きが出てきました。こうした状況の中、暮らしやすい街づくりを推進する京都府の舞鶴市では、オムロン ソーシアルソリューションズ(以下、OSS)と協力して積極的に先進技術を導入し、「便利で心豊かな田舎暮らしができるまち(舞鶴版 Society5.0)」の実現を進めています。ここではその連携事業である「共生」の中から、地方都市での「お互いさま」の精神を軸に地域社会において困っている人と助ける人、また既存の交通事業者(バス・タクシー)をシステムでつなぎ、自治体・地元事業者・住民の課題を連動的に解決していく取り組みをご紹介します。

テクノロジーによって住民同士の送迎を実現

舞鶴市では、人口減少によって公共交通サービスの利用者が減る一方で、ドライバーの高齢化や担い手不足の問題も生じ、市民のニーズに対応できなくなっていました。地域での関係が密だった頃にはどこかに行きたい人が身近な人の車に同乗して出かけることもありましたが、地方でも人間関係が希薄になりつつある現代では、それも難しくなっています。

そこにテクノロジーの力も借りて、人々が関係を深められる新たな地域社会を作ろうという意思を持つ若い世代のアイディアが入ってきて変化が生まれ、「みんなで助け合う」ことを軸とした試みが始まりました。その一環として生まれたのが、OSSが開発を担当した地域共生型のMaaS*1アプリ 「meemo(ミーモ)」です。このアプリは、舞鶴市・オムロン・日本交通の3者協働により、住民同士の送迎やバス・タクシーといった公共交通機関など複数の移動手段の組み合わせによって目的地まで移動できるようにしてくれるものです。その実証実験は、舞鶴市の一部の地区で2020年の7月から9月にかけて行われました。具体的には、meemoで経路検索を行うと、バス・タクシー・住民同士の送迎という3つの移動手段から最適な組み合わせを判断し、提案するのです。加えて、meemoを使うと、困っていた人から助けてくれた人に対して、感謝の気持ちを「mee(ミー)」というポイントの形で送ることができ、貯まった「mee」は、また他の人にお礼がわりに送れるようになっています。

特に今回のポイントとなったのが「住民同士の送迎」で、そこにはテクノロジーの力によって地域社会を再構築し、改めてそこに暮らす人々の関係を深めようとする期待が込められていました。

*1:Mobility as a Service(サービスとしてのモビリティ)の略で「マース」と読み、バス、電車、タクシー、ライドシェア、シェアサイクルなどの交通機関をITによって連携させ、人々が便利に、かつ効率よく移動できるシステムを指します。

住民の積極性を喚起し人と人とのつながりを広めるmeemoアプリ

もちろん、実際の運用にあたっては、乗り越えるべき壁もありました。meemoは、「もっと動いて、もっと会おう」というコンセプト通り、人の動きを生み出し、人との出会いを創出するアプリですが、実験の参加者の中には、そもそも「行きたいと思える場所がないからmeemoを使う機会がない」、「趣味もなく、いつ使えばいいのかわからないのでmeemoを使っていない」という方も多かったのです。そこで、OSSのプロジェクトメンバーは、住民と一緒にスマートフォンのカバーを買いに100円ショップに行ったり、喫茶店にお茶をしに行くなど、意図的に市内を巡るようなことを試み、これを「同伴作戦」と名付けました。この作戦が功を奏して「自分は移動したい欲求を確かに持っていたことを思い出した」「こういうときにも使っていいんだ」という利用者の気付きにつながり、そこから住民同士の送迎利用が増えていったのです。

また、今回の「困っている人」の対象となるユーザは、70代後半から90代という高齢者が中心でした。このため、対象者のスマートフォン保有率は全体の10%程度と少なく、meemoが使える機種については、ほぼ全員が初めて使う方だったのです。その結果、現場の担当者はスマートフォンの操作を覚えてもらうだけでもかなり苦戦することになりましたが、使い方をマスターされた方から「meemoを使ってお友だちとお茶をしに行ってくるわ」との連絡をうけることが何よりもうれしかったといいます。実証実験期間前から体験会や週2回の相談会に加えて、個別のお宅を訪問しての操作説明を繰り返したことなど、担当者の真摯な努力が身を結んだ形です

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OSS担当者から操作の説明を受ける住民

今回の実証実験では、まず「地域の人々の移動」の解決に取り組みました。そして、今後は地域の助け合いを拡大し、生活の様々なシーンでのお困りごとを解決する予定です。

たとえば、舞鶴市が目指す「お互いさま」社会では、子育て支援や学童、スマホ教室、あるいは草むしりなどの作業を住民たちが共同で行って根付かせていくことが想定されています。そのような共同作業の中で、車で送ってもらう代わりにお子さんの面倒を見るなど、お互いに助け/助けられる「地域の共生」関係も考えられるでしょう。そうした形の異なるお礼を仲立ちする存在としても、meemoの活用やmeeのやり取りが役に立つはずです。

このように、meemoによって得られる価値は、他の地域通貨のように「モノ」と交換できない点が大きな特徴となっています。それは、助け合いを促進したり、人との出会いやつながりを創出することを目的としているからです。つまり、meemoとmeeは、貨幣経済と感謝経済を融合させるうえで大事なキーとなる存在であり、助けてもらったことに対する「感謝」の恩返しとしても使えるように考えられているといってよいでしょう。

実際にも、こうした地道な努力を続けるうちに、meemoのアプリをきっかけとして舞鶴市の人々のつながりが広がってきています。

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車内でアプリの説明を受ける住民

新たに生まれた共助精神や連帯感で「共生のしくみづくり」を推進

今回の実証実験を通じて得られた結果としては、まず、利用者と住民ドライバーの関係が、単なる送迎される人/する人のものに留まらず、一緒に外出したり友達になったりと、心が通い合う状態へと変化していったことが挙げられます。いうなれば、地域コミュニティで希薄になっていた共助精神や連帯感が新たに生まれ、住民同士で助け合い、みんなで共生する気持ちが芽生えてきたといえるでしょう。 meemoがつないだのは、単に移動の始点と終点ではなく、人と人の心だったのです。そして人と人がつながっていくことで、住民自身が「自分たちのまちは自分たちが作っていかないといけない」ことにあらためて気づき、行動するきっかけになりました。今では、「meemoサポーター」という形で5,6人の住民が集まりmeemo運営について自分たちで考える仕組み化を始めています。

舞鶴市の担当者である森課長も「『お互いさま』の精神が根付く舞鶴で、先端技術を使って、人のつながりや助け合いを促進する新しい仕組みをつくり、全国のモデルとなる持続可能な「選ばれる地方都市」を目指したい」と話しており、今後は交通手段だけでなく子育て応援やスマホ指導などの様々な生活シーンでも活用して、「共生のしくみづくり」を積極的に推進していくことが予定されています。

舞鶴市とオムロンの取り組みについて

地方都市が、将来に向けて住民の生活水準を高め、豊かな暮らしを実現していくためには、人々の交流を促して安定した地域経済を確立し、持続可能な「自律社会」を作り出すことが重要です。こうした観点から、舞鶴市とOSSは 、2030年を見据えた地方の社会的課題解決のための包括連携協定を2019年4月に締結しました。

この協定に基づいて、両者は「便利で心豊かな田舎暮らしができるまち」を「舞鶴版 Society5.0」として位置づけ、その実現に向けて「再生可能エネルギーの自給率向上」、「市内全域でのキャッシュレス化の推進」、「マッチングによる共生社会の実現」、「AIが見守る安心安全な街づくり」、「若者を中心とするIT人材の移住定住促進」の施策を連携して進めています。

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