機械の五感としてのセンシング センサはどう進化するのか?

オフィスや工場、駅などの公共施設、さらに家の中など、生活のありとあらゆるシーンで、センサやセンシング技術が、人々の生活を見守り、豊かな暮らしを支えています。そして近年、ロボティクスやAIやIoT技術の進展に伴い、その重要性がますます高まっています。そもそもセンサ・センシングとは何でしょうか、そしてそれはどう進化していくのでしょうか?
今回は、オムロンで科学進化の視点から革新技術を捉え3~10年先の具体的な未来像「近未来デザイン」を描くことを担う「オムロン サイニックエックス株式会社」の社長 諏訪が、今後、重要性が高まるセンサとセンシング技術の社会的貢献とその存在意義、展望について紹介します。

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オムロン サイニックエックス株式会社
代表取締役社長 諏訪 正樹

センサとセンシング

2000年代の「ユビキタスネットワーク社会」、2010年代の「トリリオンセンサ世界」、そして近年の「IoT社会」、これらの言葉の背後にはセンサが世の中に敷き詰められた社会が見え隠れしています。このようにセンシングという技術は、いつの時代においても社会の進展の土台となる、なくてはならない存在です。

「センサ」や「センシング」という言葉を何の前触れもなく使用してきましたが、これらの違いは実は明確には区別されておらず、業界や規格によって定義が異なります。しかしながら、私の中では常に「センサ」「センシング」という言葉を明確に使い分けています。それらを簡単にここで述べますと以下のようになります。


センサ:外界のエネルギーや物理量、情報などを何らかの科学的手段によって電気信号に変換する素子
センシング:センサの出力信号を何らかの意味のある(=「与えられた目的に沿うか否か」の判断ができる)情報に変換するプロセス


これらを図で表すと下図に示すような構造として捉えることができます。

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センサ及びセンシング技術は、今後社会とどのような関わり合いを持ち続け、どのように進化していくのでしょうか?これを考えるヒントになるものの1つに、「人と機械が共存する社会」というものの過去・現在・未来の姿があります。

センサ・センシング技術の社会的貢献とその存在意義 「機械の五感としてのセンシング」

オムロンでは「人と機械が共存する社会」には大きく3つのパターンが存在すると考えています。1つめは(本来は人が担わなくてよいと考えられる)仕事を機械に「代替」させるパターンです。工場における自動化や自動改札機、あるいはスマートフォンなど身の回りにある多くの機械(道具)がこれに該当します。2つめは、人と機械の両者が「協働」するパターンです。例えば自動車における運転操作や、衝突防止などの安全技術は、人と機械が協働して安心・安全や快適性を実現している代表事例です。そして3つめが、人と機械が「融和」することにより人の能力が拡張されるパターンです。この融和という共存関係は、すでに社会実装が具現化している前述の2つのパターンと異なり、今後新たに社会実装される機会が増えていくと考えています。ここで述べたいずれのパターンにおいても、機械のさらなる技術進化が必要とされることは言うまでもありません。技術進化の肝となる要素の1つは、機械にとっての「頭脳」です。ここ10年で、機械の頭脳としてのAI技術は、深層学習(ディープラーニング)が牽引した「機械学習」と呼ばれる技術分野で飛躍的に進化しました。AI技術は、特にここ20年でセンシングの進化にもっとも貢献した技術の1つであるとも言えます。
しかしながら人と機械の共存関係が、代替から融和まで幅広く社会実装されていくためには、機械にとっての頭脳の進化だけでは不十分です。そもそも「頭脳は頭脳だけでは存在し得ない」のです。機械の進化において「頭脳」と共に不可欠な要素が機械のもつ「身体性」です。身体性を構成するのは「五感」や「アクチュエーション」です。もちろん機械の身体性は、人間が有するものと同一である必要はありませんが、人間にとっての五感が、機械にとってのセンサ・センシング技術に相当することには変わりありません。人と機械の共存関係の進化の鍵を握る技術として、今後もセンサ・センシング技術がオムロンの実現する社会実装にますます反映されていくことになります。
人と機械の共存関係は、これまで様々な形で具現化されてきましたし、今もされつつあります。IoT社会もその1つです。IoTにおけるTとはすなわちセンサ・センシング機能そのものであるといっても過言ではないでしょう。

よく「AIをより汎用的に使えるようにするためには、AIが "フレーム問題"1-3)の壁を乗り越えないといけない」などと言われていますが、実はここでキーとなるのもセンシングです。環境に触れる、あるいは物理世界と接触することで初めて獲得できる知識があり、その知識獲得には(いささか逆説的ではありますが)身体性の物理的・機能的限界が不可欠であるということは非常に興味深い話であります。敢えて大胆に言いますと、センサ・センシング技術の進展が機械の頭脳(AI技術)のさらなるブレークスルーの鍵を握るということです。

1) McCarthy, J.; Hayes, P. J. Some philosophical problems from the standpoint of artificial intelligence. Machine Intelligence. 1969, Vol.4, p.463-502.
2) Dennett, D. "Cognitive Wheels : The Frame Problem of AI". The Philosophy of Artificial Intelligence. Boden, M. A., ed. Oxford University Press,1984, p.147-170.
3) 谷口忠大.イラストで学ぶ人工知能概論.講談社,2014.

センサ・センシングの技術展望

人と機械の共存関係の進化に向けて、センサ・センシング技術はどのように発展していくのでしょうか? 3つほど私見を述べてみたいと思います。

(1)あらゆるセンサは「画像化」する
これはセンサのほとんどをカメラ(画像センサ)が担うという意味ではありません。センサの分解能が時空間軸で向上するだけでなく、(必ずしも同一機能である必要はない)複数のセンサ出力を一括して取り扱う機会が自ずと増えることから、「あたかも画像データを処理するかのような」データ処理の技術がさらに飛躍的に進化していくということを意味します。それに伴いオムロンのコア技術の1つでもある画像センシングの知見がますます多面的に活用されていくことになります。

(2)あらゆるセンサが「wireless-powered」「self-powered」に
センサは物理的エネルギーを電気信号に変換するエネルギー変換素子という側面を持っています。この電気信号は、センサ出力としてのみならず、自らのエネルギーとして活用することも可能です。さらには無線技術の進化により、将来的には無線給電も当たり前の時代になるでしょう。IoT社会における「T」のキー要素であるセンサは「自分の食い扶持は自分で稼ぐ」ことができる、というのが社会実装の上でますます求められるようになると考えられます。

(3)センサの性能がAIとの連携でさらに向上する
これまでのセンサの進化とは、すなわちハードウェアやデバイスの進化そのものでした。今後センサ(という身体性)はAI(という頭脳)との連携を深め、ハードウェアやデバイスの進化だけでは決して実現できないであろう性能(高分解能性、高速性、ローコスト化など)を実現していくはずです。人間のS/N(シグナル-ノイズ比)感度には限界がありますが、機械にとっては、大量のデータを「見る」ことさえできれば、人間の感度限界を超える微弱なS(シグナル)にも反応することが可能です。これがセンサ性能の飛躍的向上の新しい姿となるでしょう。

オムロンの商品やソリューションには、センサやセンシング技術が多く使われています。それだけオムロンはセンサやセンシング技術と密接に関わっているといえます。 サイニック(SINIC)理論での自律社会・自然社会においては、身の回りのいたるところでセンサ・センシング技術が社会に実装され続けている時代がおとずれると考えられます。そのような時代の中で、オムロンがどのような役割を果たしていくのか、考えるだけでもワクワクします。

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