人類の発展を測る新しい手法が必要

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※本記事は2019年10月14日に公開された記事を転載しています。


IMF(国際通貨基金)と世界銀行が2019年10月に開く会合では、世界の成長鈍化、米中貿易戦争の影響、世界的景気後退の防止に向けた中央銀行の役割、原油市場混乱のリスク、そのほか多くのテーマに関して、多数の議論が予定されています。しかし、気候変動への対処や地球資源の枯渇抑制に関する詳細な計画について、目新しい議論を期待することはできないでしょう。

このような経済偏重の意識は、私たちが気候と経済発展を結びつける考え方をもっとよく促進できない限り変わることがないでしょう。そこで今後は、発展を測定する手法の変更が必要になりそうです。

世の中では依然として、人類の発展がほとんど経済的観点からしか考えられていません。各国は自国の株式市場と1人あたりのGDPに威信をかけています。30年ほど前、国連開発計画は自らが用いる人間開発指数(HDI)に所得だけでなく平均寿命や教育を含めることで、より多くの側面を考慮した発展の指標を作ろうとしました。これは好ましい革新でしたが、この当初の人間開発指数はまだ粗削りであり、持続可能性や不平等性といった事項が考慮されていませんでした。

そうした事項が欠けていたことの影響が明確になったのは、最近のことです。契機になったのは、国連が不平等性で調整した指数(IHDI)を2018年の人間開発報告書に追加したことでした。不平等性がファクターに含められたことで、国のランキングは劇的に変わりました。例えば米国は元の指数で13位でしたが調整後の指数では25位に転落し、それとは対照的に、フィンランドは15位から5位に上昇しました。

気候へのダメージを考慮に入れるとすれば、さらに大きな影響が生じるでしょう。人間開発指数のランキング上位国は、下位の国より多くの二酸化炭素を排出し、多くの天然資源を消費しています。言い換えれば、私たちの用いている指標は持続不可能な、環境にダメージを与える形での成長を評価しているということです(エネルギー消費量の多い国も上位になりやすいものの、その傾向は1人あたり約100ギガジュールを上限としています。それ以上の国では、非効率的なシステムによってエネルギーが無駄にされており、人間開発の向上につなげられていません)。

これと同じことは、HDIランキングと「エコロジカルフットプリント」という指標との関係にも当てはまります。ランキングの中盤までは約140の低~中所得国が並びますが、これらの国々のフットプリントは比較的小さく、1人あたり2グローバルヘクタール以下となっています(1人あたりのグローバルヘクタールは、世界の人口1人あたりのグローバル環境容量を表す指標)。しかし、この数値は国の開発レベルが上位になると急激に上昇し、8~10グローバルヘクタールにまで達しています。

自らの政策が環境にどれだけひどいダメージを与えているかを政治リーダーたちに考えてもらうためには、1人あたりのCO2排出量、SO2排出量(大気汚染の指標)、地下水の採取量、再生可能エネルギーのシェアといった、多様な環境変数を考慮に入れた新しい開発指数が必要です。そうした指数を導入すると、米国からクウェート、サウジアラビア、オーストラリアまでの国々はそれぞれ順位を15ランク以上落とすでしょう。国家のエコロジカルフットプリントを考慮に入れた場合は、以上の国に加えてカナダ、エストニア、そして意外にもフィンランドが、20ランク以上も順位を落とすことになるでしょう。

このほかにも、もっと洗練された開発指標を作ろうという試みはありますが、まだ本格化には至っていません。国連は「持続可能な開発目標」の追求を2015年に採択しましたが、そのシステムは17項目の目標と169個の指標を含んでおり、あまりに複雑で簡潔に評価することができません。「地球幸福度指数」も広く受け入れられるに至っていませんが、これは平均寿命や不平等性のような実測データと、ウェルビーイングを評価する調査結果とを混ぜ合わせているためです(そのランキングではコスタリカとベトナムが1位と2位になっており、完全な工業化を遂げた国の中で20位以内に入っているのはニュージーランドだけです。米国は105位です)。

ノーベル賞受賞経済学者のAmartya Sen氏やJoseph Stiglitz氏、Douglas North氏の著作から着想を得た「社会進歩指数」というものもありますが、そのランキングはHDIとあまり変わりません。世界銀行では調整済み純貯蓄という概念を導入して、自然資本の増加や減耗を考慮に入れながら、GDP(フロー)ではなく富(ストック)の変化を測定しています。しかし、この指標では膨大な量のCO2やSO2、メタンが大気中に蓄積されていること、国の面積に匹敵する量のプラスチックが海洋中に漂っていること、氷河が溶け出していることといった問題が適切に評価されていません。こうした諸問題はどれも、私たちが環境についての転換点にあることを示している可能性があるのです。

この30年間は、GDPのみに注目するのではなく、健康や教育成果を国の判断に含めるようになった結果、大変な進歩がみられました。1990年以降、世界の国々は人間開発指数を20%上昇させましたが、さらに意義深いのは、最も開発の遅れた国々で50%以上上昇したことです。私たちは、気候のために真の行動を取ろうと考えるなら、開発を測るファクターに環境へのダメージや天然資源の消耗を含める必要があります。そうしなければ、いくらクールに聞こえる言葉を並べても、地球の空気を冷ますことなどできません。

この記事はBloombergのAjay Chhibberが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。

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