人と機械が共創する人を幸せにする未来とは

進化する卓球ロボット「フォルフェウス」開発者インタビュー(後編)

第5世代でより人に近づいた卓球ロボット「フォルフェウス(FORPHEUS)」。この先には、どんな未来が待っているのか。第5世代の開発チームリーダー八瀬と、第2世代からフォルフェウスの進化とともに歩んできた卓球ロボット開発メンバーである浅井に、想いとビジョンを聞いた。

 

誰かの問題はみんなの問題。他人事にならない開発環境

ーーこのプロジェクトはオムロンの画像処理技術、制御技術、AI技術など複数の技術が結集されていますが、メンバーの所属部署も違う中、大切にしていることや工夫している点はありますか?

八瀬:それぞれAI制御研究室、画像センシング研究室など、別々の部署で仕事をしていた人間が集まっているわけで、やはりコミュニケーションは大事にしていますね。そのため、開発環境をコミュニケーションが活発化するように設計しています。

一つの空間にそれぞれのデスクがあって、ホワイトボードがあって、フォルフェウスがいるという形に。そうすると、例えば誰かがアルゴリズムで行き詰まっていたら、そこにどんどん人が集まってきて議論が始まる。今、制御とビジョンって分業体制になっているのが一般的で、お互いのことはフォローし合わない現場も多いと思うんです。けれど、ここではほかのメンバーの問題が他人事にならない。チームとして一つの目的に向かって協業できるダイナミズムがあります。

el_b_contents_002.jpgフォルフェウスを前にして行われる開発

浅井:若手メンバーが集まっているので、いい意味でコミュニケーションが取りやすいというのもあります。逆にいうと開発には不慣れな者も多く、私は卓球ロボットの開発では一番古いので、しっかりフォローしよういう意識が今年は特に強くありました。「困っていることはないか?」「ちゃんと目的に合っている行動になっているのか?」と、声がけするよう意識していました。時にはちょっと厳しいことも言いながら。

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開発チームが勤務する京阪奈イノベーションセンターの食堂前には卓球台が3台完備。
ここでのラリーもメンバー間のコミュニケーションに役立っている。

ーーなるほど、他人事にならない開発は大事ですね。ただ、一つの環境に集まれるメンバーは多くないので、思考の幅が狭くなってしまいませんか?

八瀬:はい、物理的にはどうしても限界がきてしまうので、物理的な壁をこえるデジタルツールを活用しています。具体的には、社内SNSを通じてベテラン技術者と意見交換できる環境も整えています。過去の開発メンバーも含め、卓球ロボットのオープンな掲示板があって、「面白い技術を見つけた」「こういうところをアップデートした」などを投稿すると、アドバイスや新しい情報をフィードバックしてくれます。

 

ーー確かにデジタルツールを活用すれば物理的な限界をこえることができますね。それに、これまでのノウハウをスムーズに伝承することもできますし...

浅井:いや、技術についての検討書は残っていますが、実は細かいノウハウは蓄積されていないんですよ。過去の開発の改善をしたいわけではなくて、常に新しいことにチャレンジしたいという思いが強いので。

 

八瀬:社内的にも、技術の伝承に時間をかけるというよりも、それが過去の遺物となるくらい進化の速度を上げていくことを期待されています。

 

浅井:なんなら要らないものはどんどん消していきたい。ですから、過去のプログラムを検証するというより、新たな機能を追加していく時に、その知見を持った人とコミュニケーションを重ねるという意味でSNS は貴重ですね。

 

人と人、機械と機械ではなく、人と機械だから目指せる到達点

ーー新たな知見ということでいいますと、大学など他の研究機関とのオープンイノベーションにも取り組まれたとか。

八瀬:コーチング技術の開発等において大学機関との共同研究という形で開発しています。ただ、新たな知見を得るというのも一つの目的ですが、「人と機械の融和」を広く世界に伝えていくための原動力としてもオープンイノベーションは重要だと考えています。人と機械が融和する世界はまだ世にはなく、正解がありません。いろいろな知見や感性を持った人たちを巻き込んでプロジェクトを推進していくことで、より多くの人に共感してもらえる卓球ロボットの姿に近づけるのではないかと思っています。

また、最先端の研究者の方々と一緒に研究を進めていくことは、卓球ロボットで培った技術の適応先を発見することにもつながるのではという期待もありますね。

 

ーー単に技術のフラッグシップとしてではなく、技術の展開も考えていると?

浅井:オムロンの企業理念にソーシャルニーズの創造という言葉がありますが、単に技術を開発して終わりではなく、実際に世の中に使っていただくことで、よりよい社会をつくっていくことを目指しています。そして、卓球ロボットのプロジェクトが始まって5年が経ち、卓球ロボットの技術も醸成されてきています。そうした状況の中で、そろそろ卓球ロボットの技術を何かしらの形で世に出していくことができないかということも考え始めています。もちろん技術を進化させることは必要ですので、私としては、卓球ロボットの技術を磨くという方向性と、磨いた技術の社会展開という2つの方向で、フォルフェウスを進化させていきたいなと、今、強く思っています。

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CES2019でデモプレイをする浅井

ーー企業として技術を世に出し、社会へ貢献していくことを目指しているのですね。開発リーダーとしてはいかがですか?

八瀬:第5世代では人の肘と手首の動きを実現しました。ここからさらに進化させていき、より人間のしなやかで素早い動き、高度な細かい動きに近づけていけば、ほとんど人間に近いロボットの姿が見えてきます。

これは展示会を経験するたびに感じることなのですが、こんなに人の感情をゆさぶるロボットは、世の中にほとんど存在しないと思っています。ロボットに点を取られたら「悔しい」、「すごい」など、みなさんさまざまな喜怒哀楽のリアクションをされますし、「友達とやるより楽しい」と言ってくださる方もいます。そうした光景を目にしていると、フォルフェウスは、「人と機械の関係性の未来はすごく明るいのではないか」と人に感じさせてくれるシンボルに思えてくる。人と人がやるよりも、機械と機械がやるよりも、人と機械だから目指せる到達点というものがあって、それを実現していくことが、人を幸せにする未来につながるのかなと。

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CES2019で技術説明をする八瀬

ーー具体的に何かイメージはありますか?

八瀬:卓球でいうと、人間のコーチが教えるよりも圧倒的に早く初心者を上達させること。初心者が3ヵ月で経験者並に上手くなるとか、初心者がプロのスマッシュを返す感覚を掴むことができるとか。その延長線上に、人と機械の関係性において明るい未来があると思います。「どんな上級者とも、人と機械であれば対等にラリーできるようになれる」という姿を、卓球ロボットで見せていきたいですね。

そして最終的には、暮らしや社会に浸透させること。卓球ロボットのような人の成長を促すロボットが、誰もが気軽に触れられるような身近な存在になったとき、本当の意味での「人と機械の融和」が始まるのかもしれません。

人の知見を機械に組み込む「Sensing & Control + Think」技術。

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