オムロンが「まち」を変える!? 2030年に向けた地方創生プロジェクト

京都府舞鶴市の自律社会実現に向けた新しい挑戦(前編)

京都府舞鶴市。人口およそ8万人の自治体とオムロンが包括連携協定を結び、2030年の社会を見据えて、街を活性化させるためのプロジェクトをスタートさせた。マッチングの仕組みを主軸に「お互い様」を生み出すというこの取り組みは、舞鶴市はもちろんオムロンにとっても初の試みだが、成功すれば舞鶴市をはじめ、日本の地方都市が持つ課題を解決する可能性を秘めている。プロジェクトの中心メンバーである政策推進部 移住・定住促進課の小西征良さんと、オムロン ソーシアルソリューションズ(以下OSS)の横田美希に伺った現場の生の声を前編・後編に分けてお届けする。

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プロジェクトの中心メンバーであるオムロン ソーシアルソリューションズの横田と、
政策推進部 移住・定住促進課の小西征良さん

10万人だった人口が2030年には6.8万人に

京都府の北部、日本海に面する舞鶴市は、海軍ゆかりの東舞鶴と、田辺藩の城下町として発展を遂げた西舞鶴を中心に、現在およそ8万人が暮らしている。日本遺産にも登録された「赤れんが倉庫群」や、最新鋭の護衛艦が間近で見られるなど観光資源も豊富。そのいっぽうでピーク時に10万人以上いた人口が年々減り続けるといった、"地方都市ならでは課題"が、ここ舞鶴市にもあるのだ。
「現在の人口はおよそ8万人ですが、このままいけば2030年には6.8万にまで落ち込むとまで言われています。」
そう話すのは、舞鶴市役所の政策推進部 移住・定住促進課に勤める小西征良さんだ。人口が減れば財政が悪化し、暮らしそのものが成り立たなくなっていくことは誰の目にも明らかである。
「そんな折に副市長の山口寛士が、ある新聞記事を見かけたんです。」
それは、2018年4月に立ち上げられた近未来をデザインする研究会社「オムロン サイニックエックス株式会社*」の立ち上げ記者会見にまつわるものだった。
京都の企業であることはもちろんだが、自分たちが抱えている課題をオムロンの先端技術で解決できるのではないかと感じた副市長の山口さんはすぐさまオムロンにコンタクトをとり、それが本プロジェクトの起点となった。
プロジェクトそのものはオムロンにとっても新たなチャレンジ。そこで、ソーシャルニーズの創造につながるイノベーションの創出を行う「IXI」(オムロン株式会社イノベーション推進本部)がハブとなって、事業間を横断してプロジェクトメンバーを招集。ちょうどそのころOSSで、2030年に向けてスマートシティをつくるという構想が動き出していたタイミングでもあったことから、リーダーにはOSSに所属するNEXT事業統括部の横田美希が抜擢されたのだ。

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舞鶴市には風光明媚なスポットが多々あり、しばしば映画のロケなどでもつかわれる

失われた共助の仕組みを現代に蘇らせる

こうして集まった横田をはじめとする舞鶴プロジェクトのメンバーは、政策推進部 移住・定住促進課の小西征良さんをはじめとする舞鶴市役所の方々と幾度となくミーティングを実施し、あるひとつの結論にいきついた。それが、それぞれが輝ける「自律社会」をどうつくるかということだ。
自律社会とは、これからの時代は個も集団も自律していかなければいけないというもので、オムロン創業者の立石一真も「SINIC理論**」を通じて提唱していたこと。ただし、個も集団も決して完璧ではないので、お互い助け合う世界が必要とされるが、それを補完できるような「何か」を提供するのがオムロンのやるべきことではないのかと位置付けたのだ。
そして、舞鶴市自律社会の実現というキーワードを、「エネルギー」「キャッシュレス」「街の見守り」「健康」「共生」というテーマにさらに細分化。そのなかで、マッチングによって人々が快く助け合う街(共生社会)の実現に力を入れることになった。
具体的には、地域社会での困っている人と、助ける人をつなぐマッチングシステムの開発を通して、地方都市での「お互い様」の共生社会の実現に取り組み、地域を支える力と拓く力を強化するというもの。
舞鶴市をはじめとする地域社会では、少子高齢化の加速、共働き世帯の増加で、人の手を借りたいニーズは高まっているものの、特定の限られた人同士のつながりになっており、昔のように周りの人には頼りづらい状況にあるからだ。

「以前は今よりも個人と個人がつながっていて、お互いが助け合う『共助の仕組み』が地域社会にはありました。つまり、困ったら誰かに頼る信頼関係ができていたのです。地域社会で豊かな暮らしを営むためには、この『お互い様』の関係を改めて構築する必要があると考えました。」

横田はプロジェクトのポイントをそう話す。彼女自身、新規事業開拓で全国を巡っていた際に、地方ならではの課題を嫌というほど目にしてきた経緯があり、学生時代から東日本大震災の被災地に毎年赴き、地域コミュニティが分断される様も目の当たりにしている。だからこそ、このプロジェクトに対する思いは人一倍強い。
「そこで、人と人、人とコミュニティ、コミュニティとコミュニティが簡単につながる仕組みがあれば、より人々が助け合う関係性を実現できるのではないかと考えたのです。」

しかし、一般的なマッチングシステムは都市圏や海外での使用を前提としたもの。舞鶴市という地域社会にマッチングシステムを取り入れただけでは、評価の仕組みや、報酬設計の仕組みなどがうまく機能しないのは明白だ。

「それらをクリアするためにも、地方特有のコミュニティ文化や環境に合わせ、『地域社会の市場特性』を加味した独自のマッチングシステムが必要になってくると考えています。マッチングにより人々が快く助け合うまち(共生社会)を実現するための成功の鍵は、『信用担保』と『インセンティブ』の設計をどうするかが重要になってきます。」

キーになるのは信用担保とインセンティブ

例えば、子どもを預けたいお母さん(困っている人)と、子育てのスキルと時間があり、子供を預かってもよいという高齢者(助ける人)をマッチングする。そして、子供の面倒を見てもらった代わりに、雪かき、草刈り、庭掃除といったお返しをして、「お互い様」で共生の仕組みをつくっていくというものだ。
「地域では、いい意味でも悪い意味でも距離が近く、お互いの顔が見えるので、そこを活かした信用担保の設計をしていきます。そこに、助けてあげたいと思わせるような仕組みが必要なのです。」
信用担保は、このマッチングシステムの利用者が、自分や自分の大切な人に危害を与えない、信用できる相手であることがなにより重要。インセンティブは担い手がこの仕組みを使いたいと思うモチベーションが必要ということだ。

「今後は具体的なアプリを開発して、実際に地域の中で検証できるように舞鶴市とオムロンのチームで進めていきます。世界中見渡しても成功した事例はないですし、成功するという保証もどこにもありません。でも大切なのは、失敗をどうとらえるかということ。失敗を繰り返したうえで成功になったのなら、それはただのプロセスでしかないのです。」

横田の眼差しは真剣そのもの。

金銭的価値を目的としない、「共生」の仕組みづくりへの課題は山ほどあり、困難なのも目に見えている。地方都市ならではの住民同士の距離感や、そもそもヨソモノを受け付けない排他的なエリアもあるだろう。しかし、これらを解決すれば、日本の地方都市が持つ課題を解決する可能性を秘めているのだ。

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後編に続く


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(注釈)
*オムロンの考える"近未来デザイン"を創出する戦略拠点。ただ未来予測をするだけでなく、"目指したい社会"を実装できるレベルにまで落とし込んだ未来を描くことを目的としている。
**創業者・立石一真が1970年国際未来学会で発表した未来予測理論。パソコンやインターネットも存在しなかった高度経済成長のまっただ中に発表されたこの理論は、情報化社会の出現など、21世紀前半までの社会シナリオを、高い精度で描き出している。

人の知見を機械に組み込む「Sensing & Control + Think」技術。

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