モノづくり現場の課題解決のために、ロボットの可能性を広げたい

ロボットハンドは人間の手にどこまで近づけるか

近年、モノづくりを行う製造現場や宅配サービス、医療現場に至るまでロボットが私たちの生活の中で活躍する機会が増えている。現在人が担っている仕事も将来的にロボットが代替するという議論が起こるなど、ロボットと人との関係は以前より身近になっている。オムロンは、最先端のロボティクス技術開発を通して、ロボットの可能性を広げ、さまざまなシーンでロボットが活躍できる「人と機械が融和した社会」をつくることを目標に掲げている。人がより創造的に働き、暮らすために、機械が人の能力や可能性を引き出してくれる社会だ。

そのような近未来の姿を構想し技術開発を行うのが、オムロン サイニックエックス株式会社(以下、OSX)。そのメンバーの1人、ロボットハンドの研究に挑み続けるフェリクス・フォン・ドリガルスキ(以下、フェリクス)は、2018年10月に開催されるロボット技術の競技会「World Robot Challenge(以下、WRC)」のものづくりカテゴリーに出場する。

フェリクスのロボット研究に対する想いやWRCに向けての意気込みについて、話を聞いた。

※本記事は競技会開催前の9月に取材、競技会結果は文末に掲載しています。

面倒くさがりだからこそ、ロボット開発にチャレンジしている

ーーまずは、ロボットの研究を志したきっかけについて教えてください。

フェリクス:SF作品では、1950年代以前からロボットが登場していました。そのころ、私は生まれていません。つまり、私が物心ついたころには、「大人になったらロボットが人間の代わりに働いてくれている」という考えを当然のこととして受け止めていました。洗濯をしてくれたり、服を畳んでくれたりと、人間が面倒だと感じることは、ロボットの仕事になっているはずだったのですが...。

ーー残念ながらそうなってはいませんね。

フェリクス:そうですね。だから私がロボットを研究しようと思いました。それに、私は面倒くさがりでして。(笑)ロボットが代わりに働いてほしい、そう思いロボット研究をはじめました。

173_01a.jpgフェリクス・フォン・ドリガルスキ

ーー主にロボットハンドの研究をされているそうですね。

フェリクス:ロボットの手は人間には遠く及びません。ロボットは、「きちんとつかめているか」「滑り落ちそうになっていないか」といった状況を判断することが難しいのです。金属など硬いものならまだできるのですが、布地など柔らかなものは厳しい。カメラを搭載して最先端の画像処理技術を使っても、くしゃくしゃに丸められた布地を正しく認識して、その全体像を想像させる技術までたどり着けていません。

ーー一方、人間の手は、どのようなものなのでしょう。

フェリクス:指にも掌にも大量のセンサを搭載しています。指先は弾力性に富んでいて、どの範囲が物体と接触しているのか、圧力や摩擦力はどうか、などさまざまな内容を多角的に認識し、目などほかの器官から得た情報も組み合わせて、どのような物体をつかんでいるかを認識できます。研究では、ロボットの手を少しでも人間の手に近づけることを目指しています。

173_02a.jpgロボットの手が人間の手に近づけば、様々な作業をロボットが担うようになる(イメージ)

ーーこれまで国内外の企業や研究所で勤務の経験がありますが、オムロンという日本企業の研究機関に所属する決め手は何だったでしょうか。

フェリクス:自分の適性は、基礎研究より応用研究に向くと感じる機会が何度かありました。そこから研究だけでなく、事業につなげて社会実装したいと思うようになっていました。そんな時に、OSXから声をかけてもらったのです。日本企業で研究することに対して、海外の企業や大学に比べて自由さに劣るというイメージは、確かにありました。しかし、OSXに入ってみると、とても自由に研究できています。独立した研究テーマを決めて自ら考えて行動でき、学会への参加や論文発表もできます。また、OSXで一緒に働く研究員やオムロンの技術者が優秀なので、とても良い刺激を受けています。研究しているテーマとOSXという組織の方向性も合っています。何より、社会課題を技術・事業を通して解決し続けるというオムロンの理念に共感しました。充実した毎日を過ごせていますよ。

ロボットに任せられる仕事は、どんどん増えてくる

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ーーロボットの話に戻りましょう。「ロボットの能力を高めることは、極めて難しい」とさまざまな場面で聞くことがあります。

フェリクス:最大の問題は、「現在のロボットは人間が見ている世界を完全に認識できていない」ということです。人間の場合、状況を把握して、何をしたいか考えて、やってみて、できたかどうかを確認しますが、ロボットにはそれができません。ロボットに学習させるためには、何がだめだったか人間が教えなければなりませんが、それも人間に教えるような方法とは違うので非常に難しい。

ーー産業用ロボットは、将来どのレベルまで進むと考えていますか。

フェリクス:身体能力の上ではロボットは人間を超える部分もありますが、知能という点でいうと今はまだ試行錯誤を重ねている段階です。今の産業用ロボットは、特定の環境下で決まった動作であれば人間以上に高速かつ正確に行うことも可能ですが、抽象的な命令は理解できませんし、ひとたび環境が変わると対応できません。しかし近い将来に向けてロボットのできることが広がってゆけば、ロボットに任せられる仕事がどんどん増えてくることは確かでしょう。そうなると、人間はロボットのスーパーバイザーの役割を担うような関係性になるのではないかと思っています。
オムロンが目指す人と機械が融和した未来の実現に向けて、私たちの研究が大きな助けになればと考えています。

協調ロボットを活用した、金型へのネジ締めの自動化

競技会に参加し、ロボットの技術開発を加速させる

ーー今回のWRCについても聞かせてください。

フェリクス:今回エントリーしたものづくりカテゴリーでは、現在のロボット技術では不可能と言ってしまえそうなギリギリの課題に挑んでいます。
金型やネジ、ゴム製リングなど複数の部品を組み立てるのですが、それらを正しい場所に正しく取り付け、ネジを締めるという一連の作業を、どこまでロボットがやれるかを競います。部品の嵌合などはロボットにとって難易度の高い細やかな作業ですが、実現すればロボットの技術開発を加速させる大きなチャレンジだと感じています。

※嵌合(かんごう)とは、部品と部品をはめ合うこと。隙間のない部品同士をはめ合わせるため、非常に細かい手先の作業が必要。

173_04.jpgWorld Robot Challengeものづくりカテゴリー概要

ーーOSXだけでなく、大阪大学や産業技術総合研究所、センスタイムジャパンなどとチームを組んで出場しますね。

フェリクス:さまざまなテーマで研究している大学や企業、団体とコラボレーションすることも、WRCに出場する意義の1つです。お互いの知見や技術を組み合わせることで、1社ではできない、より高度なレベルの技術を実現することができます。週に2回「コアタイム」を決めて、地理的に離れている仲間たちとWebを通していつでも話せる時間を作って、チームはうまく回っています。参加するのは16チームと聞いていますから、ライバルは15チーム。もちろん、目指すのは優勝です。

ーー成果を楽しみにしています。本日は、ありがとうございました。

追記

オムロンが所属する産学合同チーム「O2AS」は、20181017日から21日まで開催された国際ロボット競技会「World Robot Challenge(総称:WRC)」のものづくりカテゴリー「製品組立チャレンジ」において、「計測自動制御学会賞」を受賞しました。詳細はこちらから。

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