ロボットの未来を生むのは、多様な技術と人財の出会い

~デロン・ジャクソン オムロンアデプトテクノロジーズ 最高技術責任者(CTO)に聞く産業用ロボット開発の醍醐味~

シリコンバレーの東、サンラモンにあるアデプト テクノロジー社(現オムロン アデプトテクノロジーズ)。ロボット産業の夜明けともいえる1983年に設立された産業用ロボットのパイオニアだ。工場の組立や箱詰め、搬送など幅広い工程を自動化できるロボット技術を強みとしている。

そのうちの一つが、モノを移動させるという重労働から世界中の人々を解放する技術。様々な工場・倉庫で、人や障害物を自動で回避しながら最適なルートを自ら考え、決められた場所に荷物を届ける人工知能(AI)を搭載した自動搬送モバイルロボットだ。

アデプト テクノロジー社は2015年にオムロングループに加わり、オムロンのファクトリーオートメーション(FA)技術と組み合わせ、高度化する製造業の課題解決に取り組んでいる。

このオムロン アデプトテクノロジーにデロン・ジャクソンという最高技術責任者(CTO)がいる。産業用ロボットの開発を約20年に渡りリードしてきた人物だ。自動搬送モバイルロボットの生みの親でもある。ジャクソンが目指すのは、人がより創造的な仕事ができるよう、これまで自動化できなかった作業を機械に任せられる世界だという。

彼が考えるロボット開発の醍醐味とは何か。そして、ロボットの分野で今後10年間に起きる最大の変化は何なのだろうか。

ロボット作りに夢中だった少年が、ロボット開発の世界的権威へ

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ジャクソンが最初のロボットを作り始めたのは6年生のときだった。木箱とサラダボール、工作キットの部品など、家の中にころがっていたものをかき集めて作った。小さいときから「手当たりしだいモノをバラバラにするのが好きだった」ため、13歳になるころにはたいがいの物の仕組みが理解できるようになっていた。

手作りロボットの名前は「My Robot」。「安っぽいR2D2のような感じ」と言うが、映画の人気キャラクターが現実にはできないことがいろいろできた。「My Robot」は家庭向けコンピューターのはしりだった「Atari 800」につなげ、腕の位置を調節したり、木や金属で作ったツメを開閉できた。コンピューターのジョイスティック・ポートとポテンショメーターを使って制御とセンシングをした。反射板とフォトダイオードを用いて光を計測し、画像を形成する「ビジョン・システム」まで搭載されていた。

当然のことながら、大学は工学部に進学した。電気工学を4年間勉強した後、1991年に最高峰のマサチューセッツ工科大学(MIT)の修士課程に進んだ。Laboratory for Electromagnetic and Electronic Systems (LEES、電磁気・電気システム研究所)に加わり、徐々に学業はロボットの分野にシフトして行った。修士論文のテーマは、ダイレクトドライブ機構のロボットの振動を最小化する手法について。(偶然にも、1984年に世界で初めてダイレクトドライブモータを使ったロボットを商品化したのがアデプト テクノロジー社だった。)

ジャクソンは1998年にMITから博士号を取得。博士論文は、複数の関節を通じて無線でロボットに電力を供給する技術に関するもの。この先端的技術はまだ実用化されていないが、米国特許6件、国際学会・学会誌における論文16件に名前を連ねるという業績を残した。

ロボット分野の技術革新の鍵とは?

学問の世界に残る道も提示されたが、ジャクソンは産業界に進むことにした。「目的を持った技術を開発し、それが実用化されるのを見たかった」からだ。生まれの米サンフランシスコ湾岸地域、シリコンバレーに戻りたいという気持ちも強かった。時はインターネット・ブームの真っ盛りだったが、流行のドット・コム企業にも、夏休みの間にインターン生として働いた大手半導体メーカーも選ばなかった。これらの会社では技術者はある特定の狭い領域にフォーカスする必要があり、「つまらない」と感じたからだと言う。多数の選択肢の中から選んだのがアデプト テクノロジー社だった。

ロボット開発は異なった技術領域にまたがる学際的な分野であり、大きく4つのコア技術で構成される。電気工学と機械工学、制御システムとソフトウエアだ。他のハイテク商品と大きく異なる点は、ロボットを開発するのに必要な技術が広範囲であること、さらに、これらのコア技術が深いレベルでかかわり、統合することが成功のための必須条件であるという点だ。

ジャクソンの専門は電気工学だが、ソフトウエアのアルゴリズムを書くこともできるし、機械システムを設計することもできる。レベルの差はあるものの、オムロンアデプトで働く技術者の多くは、同じような傾向にある。一つの分野のエキスパートでありながら、他の領域についても知識と関心を持っているのだ。

このような多様なスキルと経歴を持つ人財、チームの協力が、ロボット分野の技術革新の鍵を握る。そして、こうしたチャレンジこそジャクソンの求めてきたものだった。

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ジャクソンは1998年の入社以来、ずっとアデプトで働いてきた。最初はシニア・エレクトリカル・エンジニアという肩書きで、ロボットの"頭脳"と、モーターに指示を出すサーボアンプの分離を可能にする分散制御技術の開発に携わった。今日に至るまで、この技術はオムロンのロボットの大きな強みであり、他社製産業用ロボットに比べて高速、省エネ、低コスト、省スペースを実現できるゆえんだ。

その後、ジャクソンは自動搬送モバイルロボットの開発と商品化をリードした。主に大学や研究所で使われていた技術を、工場や倉庫といった産業利用にも耐えられるように改良した。生産ラインの中で装置と装置の間を人が製品を運ぶという仕事や自動搬送ロボットの導入がもっと簡単になれば、人はよりスキルが求められる仕事に集中できるのではないかと考えたからだ。世界に先駆けて自動搬送モバイルロボットの産業利用を実現し、今は世界中の工場・倉庫でオムロンのモバイルロボットが活躍する。

ダイナミックなロボット開発、そのやりがい

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特にここシリコンバレーのように人財の流動性が高い地域では、ジャクソンのような技術者が一つの会社に20年近くもとどまるのは珍しい。ジャクソンによると他の仕事について考えてみたこともあるが、オムロンアデプトテクノロジーズのようにダイナミックで面白い仕事はほかに見当たらなかったという。「1日の間に、新しいソフトウエアのロードマップの打ち合わせをし、新型機構部品をチェックしてから、うちのロボットが活用されている顧客の工場訪問もできる仕事なんてほかにない」。

彼はさらに続ける。「オムロンはFAの世界におけるリーダーとして長い歴史を持ち、インプットからロジック、アウトプット、安全機器まで幅広い製品群を持っている。その製品ポートフォリオはますます広がりを見せており、センサー、コントローラ、モーター、安全機器など全体で20万品種を超える幅広い製品群を持っている。これほど技術と人財を幅広く持つ会社はほかにない」。

「オムロンのコア技術『Sensing & Control + THINK』は、AI技術の進化を加速し、自動化の分野に人間のようなインテリジェンスを持ち込めるようにする。例えば自動搬送モバイルロボットはその良い例だ。自動搬送モバイルロボットはセンサーで環境を認識し、知的に、自動的に工場の中をナビゲーションすることが可能なので、人といっしょに安全に働くことができる」。

今後10年間に起きる最大の変化は何か?

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ジャクソンの予測では、それは「高次元の制御とAI(THINK)のおかげで、一般的な人の作業を簡単に、時には瞬時に、自動化できるようになることだ」。これによって、従来よりも迅速な自動化が可能になるだけでなく、面倒・退屈だけれどこれまで自動化が難しかった作業をも機械に任せられるようになる。

これはオムロン創業者、立石一真が残した企業理念「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」に沿った結果をもたらす。ジャクソンはこの言葉に深く共感する。

そして、産業用ロボットにはまだ進化の余地がある。人が目でモノを見て、モノに合わせて掴み方や掴む力を即座に変える動きをロボットに再現させるには、ロボットに視覚と触覚を加えると同時に、正確な掴み方をする脳や神経が必要だ。

例えば、3次元センサーの進化によって、将来の組み立て工程では部品の認識や把持に新しいインテリジェンスを持ち込めるようになる。ほかにもロボットと3次元安全センサーを組み合わせれば、人の位置と動きを検知して衝突回避が可能となり、人とロボットはもっと近い距離で協働できるようになる。

こうした多種多様な技術要素をいかにエレガントに、シームレスに統合し、我々の顧客、そして社会に役立つようにするか?

これがジャクソンを日々まい進させるチャレンジだ。今春、オムロンアデプトはサンフランシスコ湾岸地域に新しいR&Dセンターを開設する。今まで以上に世界中の技術者がオムロンの技術と出会い、技術革新を加速させていく。そして人の動きをロボットに再現させる技術が与える影響は、工場だけに留まらない。人がより創造的な仕事ができるよう、これまで自動化できなかった作業を機械に任せられる世界をつくる。ジャクソンの壮大な夢は始まったばかりだ。

未完のまま、ジャクソンの実家で完成を待っている「My Robot」。当面、それに取り組む時間はなさそうだ。

人の知見を機械に組み込む「Sensing & Control + Think」技術。

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