MEMS ―ミクロの世界から見つめる地球の鼓動-

~人をつなぐIoTが、あったらいいな"を"あたりまえ"の日常に~"

心臓の鼓動のようにトクトクと繰り返し動くこの振動は、オムロンの血圧計に組み込まれている、圧力センサー。
この大きさ、わずか1.36mm。

圧力や慣性、流量、温度、音、光といった自然界のさまざまな現象を検知するセンサーが、私たちの身の回りから産業界まであらゆるところに組み込まれている。

例えば体温で人を検知する赤外線センサーは、人がいるところだけ照明をつけたり、人がいるところにだけ空調の空気を送ったりすることで、電気の消費を減らすのに役立っている。
あるいは感震センサーは、強い地震を検知して装置や設備を止め、故障や火災を防ぐ。
スマートフォンに内蔵されているマイクロフォンもセンサー。高音から低音まで幅広く検知し、クリアに伝えるセンサーが内蔵されているからこそ通話や音声入力ができる。

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MEMSマイクロフォンの仕組み

これらのセンサーの特長は、非常に小さいこと。数mm程度のハードウェアの中に、検知する機械的機構と、それを電気信号として伝えるためのコントローラーや回路が詰まっている。
こうした微細な機械は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれる。

MEMSは、次世代のキーテクノロジーとして応用分野をどんどん拡大している。
スマートフォンやウェアラブルデバイスのアプリケーションが豊富になっているのも、MEMSがより小型で高精度になっていることと無関係ではない。
スマートフォンを傾けると画面の向きが変わる、地図アプリで現在地を正確に把握できる、あるいは持ち歩くだけでどのくらい動いたかといった活動量を知ることが出来る。

こうした機能には、すべてMEMSが使われている。

とりわけ近年、MEMSで集められる情報として重視されるようになってきたのが、"高さ"。
位置情報に高さ情報が加わると、建物の何階のどの位置にいるかを認識してナビゲーションできるようになったり、階段の上り下りの動きを検知してより正確な活動量を算出したりできるようになる。

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ショッピングモール内のナビゲーションでも活用できる

ではどうやって"高さ"を把握するのか?
そのポイントになるのは、気圧の差である。

高度が上がるほど気圧が低くなることは誰もが知っていること。
計算上エベレストの頂上の気圧は、地上の約30%しかない。
高所だけでなく、私たちが普段生活している場所でも非常に微小な空気の質量が圧力として絶えず私たちにかかっている。

この微小な気圧を真空状態との差から検出するのが、絶対圧センサー。

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世界最高クラス(*)の精度を誇る絶対圧センサー

2.0mm×2.5mm×0.85mmというペン先ほどの小さなパッケージの中に気圧を検知するセンサーとコントローラーの役割を果たすICチップが入っている。

高さにして±5cmに相当する±0.6Paの気圧変化の検知を可能にした。
±5cmの高低差がわかれば、階段1段分の移動も正確に検出することができる。
これほど精密でしかも小さいサイズを実現したのは、世界トップレベルだ。

無限の組み合わせに、立場の違うメンバーが集い、挑む。

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わずか2mm程度のパッケージに納まるサイズで微細な気圧変化を捉える機械を作る。
これは開発者たちにとっても想像以上に難しい課題だった。

パッケージ内には、真空の空洞にシリコン製の薄膜(ダイヤフラム)を張ったMEMSセンサーがあり、外部から入ってきた空気によるたわみ(変形)具合で気圧を測定する仕組みになっている。センサーの精度を上げるには、このシリコン膜をできるかぎり薄くし、微細な気圧でもより大きく形状を変化させる必要がある。 また薄膜の形状変化を電気信号に処理する回路では、電気信号を伝える精度を高めるため、いかにノイズを低減するかも課題だった。

しかもこれらの難題を解決し、センサーの精度を上げるほど、今度は温度変化によって生じる筐体のほんのわずかなひずみ(応力)など、気圧以外の影響も検知してしまうという問題も発生する。

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絶対圧センサー断面図

高性能で、かつ、気圧以外の応力を検出しないようにするにはどうしたらいいか?
開発チームのメンバーは部品の材料から構成までを徹底的に検討した。

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設計検討を繰り返す開発メンバーの籠島、井上

ICチップを覆う蓋、センサーとICチップをつなぐワイヤー、部品を固定する接着材にはどんな材料が適しているか。さらに各部品をどのように配置するか。考えられる組み合せは無数にある。

「センサーの性能を高め、安定した生産が可能で、コストも見合うセンサーにするために、構造や材料について、専門分野や役割の違うメンバーが集まったチームで意見を出し合い、見込みのある構成の試作と評価を繰り返しました。
目標を達成する構成にたどりつくまで、途方もない数 のアイデアを粘り強く出し続けました。
これまでの常識も見直し、使えないと言われてきた材料にまでも手を伸ばし、樹脂メーカーと一緒に進化してきました。」と振り返った開発担当者の井上。

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性能試験を繰り返す開発メンバーの佐野、鵜飼

試作品を作るのも容易ではない。

1mm以下の部品を組み立て、さらにその位置をμm単位で微調整するには非常に高度な実装技術が必要になる。

困難を打ち破る力になったのは、20年にわたるMEMS開発でオムロンが蓄積してきたノウハウだった。

「オムロンにはスマートフォンに内蔵されるマイクロフォンを累計10億個以上も製造してきた実績をはじめMEMSを作るものづくりの技術があります。MEMSは組み立ても難しく、調整も多い。いい意味で、今まで繰り返してきた失敗も含めて、蓄積してきた微細な加工や実装、品質検査の技術を存分に生かすことで、今回の絶対圧センサーの開発が可能になりました」と、開発者たちは口をそろえる。

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試作に奮闘する製造メンバーの寺阪、喜多

成功だけでなく、失敗も重ねてきたからこそある今。

こうして想定されるあらゆる応力の影響を取り除き、世界トップクラスの性能を誇る±0.6Paの気圧変化を捉えることに成功。

「オムロンのMEMSは"過去からの技術の伝承"と"新しい技術の融合"から生まれています。
世界トップクラスのセンサーを、プロジェクト開始からわずか1年半で世に送り出せたのは、企画、開発、技術、品保、営業のメンバー一人ひとりが"できない"と言わずに、チャレンジし続けられたからです。
新しいセンサーを創造し、世の中に新しい価値を提供したい、というメンバーの"想い"が産んだセンサーだと思っています。 」
全員の想いを結実させたプロダクトマネージャーの安達が、自信を持って語る絶対圧センサーが完成した。

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商品企画をリードする、プロダクトマネージャーの安達

つくるのは、"あったらいいな"を"当たり前"にするMEMS

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±0.6Paの気圧差を検知できるほど高性能、かつ極小サイズを実現したことで、絶対圧センサーの応用可能性は今まで以上に大きく広がることになる。

立つ、座る、寝る、倒れるといった人の動きや階段の昇降、3次元空間で位置を判別できる特性を生かし、スマートフォンやさまざまなウェアラブル端末に搭載されるアプリケーションの開発も進むだろう。

「例えば、百貨店で迷子になった子どもが何階にいるか、あるいは災害時にビルの何階に救助を待つ人がいるかなど、GPSの電波が届かない屋内でも3次元で位置を把握することで、防犯や子どもの見守り、災害時の救助などの"安心・安全"にも役立てられます」 と、語るのは世界中のデバイスメーカーなどの顧客とともにアプリケーション開発を進める営業の若林。

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アプリケーションを顧客とともに広げる若林

あるいは階段の昇降や坂道などの高度も含めて活動量を測定できる高精度のウェアラブル活動量計などを通じて「健康」にも貢献できる。

もしかしたら2020年に東京オリンピックが開催される頃には、世界から訪れる観光客を誘導する画期的な3Dナビゲーションシステムが活躍しているかもしれない。

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「圧力、慣性や流動性、温度、音、光、そんな自然界の現象をセンシング技術で捉え、価値ある情報に変えることで、人にとってもっと優しい製品、これまでできなかったことをできる製品が生まれます。これからもMEMSの開発を通じてさまざまな "あったらいいな"が"あって当たり前"になる未来を、チーム一丸となって創っていきます。」

プロダクトマネージャーの安達は締めくくった。

みなさんは、未来にどんな"あったらいいな"を思い描くでしょうか?
たくさんの人のたくさんの"あったらいいな"が実現した未来はきっと、その数だけワクワクに満ちているに違いない。
たくさんのワクワクが"当たり前"の日常になる。オムロンの技術の先にきっと、そんな未来が待ち受けている。

*2016年1月12日現在 当社調べ

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