AIとモノづくりの現場を融合させるには?

~機械に熟練技能者の知恵を持たせる挑戦~

オムロンの情報工学スペシャリスト 仲島 晶。

世界最先端の情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)技術をオムロン製品へ展開している人物だ。

彼は1987年に入社し、UNIXワークステーションやITRONなどのリアルタイムOSの開発に携わり、オープンアーキテクチャーをATMや自動改札機などに組み込む技術を習得してきた。モノづくりの現場では基板検査装置が自動で良品を記憶し、異常を見つける知能化システムを構築するなど、挑戦の領域は多岐にわたる。

その仲島が今挑戦しているのがAIとモノづくりの現場の融合。

"機械のパーツが壊れる前に機械自身が人に教えてくれる、不良品をつくってしまう予兆を機械自身が感知し、不良品をつくらないように動作を改善する、などの熟練技能者の知見や勘が一つひとつの機械に宿っていれば、モノづくりの現場はもっと人が働きやすくなる"

熟練した技術と知識を持つ技術者が、経験と予測をもとにトラブルを未然に防ぐように。

熟練技能者の知恵を、機械に学習させることはできないか?技術でモノづくりの現場を変えていく、仲島のチャレンジが始まっている。

トラブルをなくして、不良品をゼロにする

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「特に海外のモノづくり現場の方と話していると、エキスパートフリーメンテナンスという言葉がよく出てきます。モノづくりの現場で何かトラブルが発生した際、知見を持った10年選手の技術者でなければ対応できないことがよくあるのですが、現場で働く人がトラブルに対して誰でも簡単に、即座に対応できるような機械にしたいというのが求められています。トラブルが起きたままでは不良品が多く生まれてしまいますし、最悪のケースは生産もままならなくなってしまいますから」と仲島はモノづくりの現場で生まれるニーズを解説する。

「近年では資源や環境の面から、モノづくりの現場における不良品・廃棄物削減への取り組みが進んでいます。例えば、欧州では食品工場に対し廃棄物ゼロの規制も出ていて、機械自身が故障を知らせるような予知保全ができない場合は採用しないと打ち出す企業もあるくらいなんです」

現場での少ない情報で素早く"いつもと違う"を発見するAI

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そこで、仲島が着目したのがエッジ・コンピューティング。エッジ領域、つまり現場にある機械を制御するコントローラーに機械学習エンジンを搭載し、機械自身がリアルタイムで状態監視を行い、"いつもと違う"動きを検知するという構想だった。

その構造を、仲島は脳に例えて次のように話す。

「クラウド上で行われるビッグデータのマイニングと機械学習を『大脳思考的AI』とするなら、現場で行うスモールデータの機械学習は『脊椎反射的AI』です。IoT対応のセンサー群でリアルタイムにラインや装置を監視し、高速でデータを収集します。そこから特徴量の異常を抽出、時系列データベースの作成と機械学習による監視を行い、すぐさまフィードバックを行う。そのレスポンスはクラウドで同様の事を行う際の10倍から100倍以上。人が何らかの異常や危険に対し反射的に体が動く、まさに脊椎反射を機械に実行させるAIです」。

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機械学習するマシンオートメーションコントローラーで "いつもと違う" 動きを検出
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仲島が取り組んでいるのが、"いつもと違う"という段階で現場の人間に判断を求めるAIの開発だ。

「モノづくりの現場には、膨大な試行回数やデータ数を必要とせず、"機械がなぜそのように判断したのか"を人間が理解できるアルゴリズムが不可欠です。不良品や異常はそもそも発生頻度が少ないし、機械がなぜ異常だと判断したのか分からなければ人間が品質を保証することができなくなるからです。異常ではない通常時のデータを使って、"いつもと違う"現象を機械に認識させるアルゴリズムをコントローラーに搭載しようとしています」。

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ファクトリーオートメーション(FA)領域におけるAI技術(アルゴリズム)の分類例
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モノづくりの現場とAIを融合。その先にある未来

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AI機能をコントローラーに搭載するには、AI技術だけでなく、マシンオートメーション技術、オープンアーキテクチャー技術に加えて、モノづくりの現場のニーズに精通していなければならない。AI機能を取り入れることで、制御に影響を与えたり、ラインの遅延を招いたりすることは決して許されない。

「"いつもと違う"機械のふるまいを見つけるためには1/1,000秒~1/100,000秒単位のリアルタイム性で全ての制御データを収集・分析・フィードバックする仕組みが必要です。そのために時系列データベースと機械学習エンジンを高速・軽量化し、制御機能と融合させています。これはオープンアーキテクチャーをベースとしているコントローラー、機械を動かすサーボモーターや各種センサー群といった幅広い製品ラインナップを持つオムロンだからこそ可能になったと言えます」。

ときに失敗は、熟練技能者であっても起こり得る。「初めて扱うとき」「久しぶりに扱うとき」「条件が変更されたとき」いわゆる"いつもと違うとき"に失敗しやすいというモノづくり現場の声もある。機械が熟練技能者の知恵を学習すれば、人間の苦手とすることも解決できるようになる。

「"いつもと違う"というのは、4M変動とよばれるモノづくりに関わるMAN(人)MACHINE(機械)MATERIAL(材料)METHOD(方法)のという条件の変更によって起こるのですが、無数の要因があり、数年しないと発生しなかったりするものもあるので、コントローラー1台のなかだけで解決できるものではありません。

クラウドベースでも長期的スパンでの予防保全を行い、エッジベースで短期的・即時の予防保全を行う。それをどうバランスを取っていくのかというところを、今後はさらに研究したいですね」。

仲島の目は、チャレンジの先にある未来もしっかりと捉えている。機械が熟練技能者の知恵を持てば、もっと人が働きやすくなる。そして熟練技術者はさらなるイノベーションを生み出すことに力を集中することができるようになる。さらなる価値を創造するため、技術でモノづくりの現場を変えていく、仲島のチャレンジはまだまだ続く。

「AI搭載マシンオートメーションコントローラーの第一段階の目的は予防保全ですが、最終的に目指すのは制御そのものをAIで行う賢いモノづくりなんです。機械そのもの、工場そのものを賢くして、素晴らしいモノを作り出す。そして、人はよりクリエイティブな創造に挑戦していける。そんな未来を築いていければ」と、仲島は語ってくれた。

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