AIが浸透した世界の先に見えるビジネスとは?

~ビッグデータを流通させ、新しいサービスやビジネスを生み出す人の助けに~

現在、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能:Artificial Intelligence)は、産業界から私たちの生活まであらゆるところに普及しつつあります。

しかし時代のトレンドとして言葉ばかりが独り歩きする一方、実際に"IoT"や"AI"が浸透した世界とはどのようなものなのか、いまだはっきりとは見えません。そこでは何が可能となり、どのような課題が浮き彫りになってくるのでしょうか?

IBMソリューション、サービスを使用もしくは使用予定の関西地区の企業が集まる「関西IBMユーザー研究会」は2017年2月20日にスペシャルセミナー「コグニティブ・ビジネスの未来とは?~AIブームの次に来るもの~」を開催。オムロンでセンシングデータ流通市場の構想を描いている李相烈がパネラーとして登壇。セミナーでは、AIやビッグデータ解析のスペシャリスト4人が、AIが当たり前になった世界の更にその先を見すえた議論を繰り広げました。

AIは人に取って変わるものではない AI="Augmented Intelligence"

日本IBM株式会社 ワトソン事業部 ワトソン・テクニカル・セールス担当 吉田 洋泰氏

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最初に日本IBM株式会社の吉田洋泰氏が、IBMが提供するAI"IBM Watson"を紹介しました。

「"IBM Watson"は、もともとクイズ番組用に作られた質問応答システムで、言語処理と機械学習によって自然言語を理解し、大量のデータを自ら洞察し、論理的な回答を導き出す機能を備えたテクノロジー・プラットフォームです。現在、お客様から問い合わせに対話型で自動応答するチャットボットやテーマパーク内でお客様に応対するロボット、人材紹介企業においてエントリー者と求人側の適切なマッチングなど様々な分野に活用されています。」と説明した吉田氏。

膨大な自然言語を理解し、人間からの問い合わせに対して「根拠のある」回答を提供できる"IBM Watson"。現在、コールセンターでの自動会話プログラムやテーマパーク内のホテルやレストランでお客様に応対するロボット、人材紹介企業においてエントリー者と求人側の適切なマッチングなどに活用されています。

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「しかしこうしたAIが人に取って代わるとは考えていません」と吉田氏。

「IBMの考えるAIは、人工知能"Artificial Intelligence"ではなく、あくまで人を助ける"Augmented Intelligence"。今後も、人を助け人の知識を拡張するものとして、AIを進化させていきたいと考えています」。

世界中のデータが集まり流通できる「センシングデータ流通市場」の創設へ

オムロン株式会社 技術・知財本部 企画・CTO支援室 先行技術推進課 李 相烈

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"IBM Watson"をはじめAIを活用するには、その資源となる「データ」が欠かせません。

オムロン株式会社の李 相烈から、データを流通させる新たな仕組みについて紹介がありした。

「世の中のセンサーから読み取ったあらゆるデータがインターネットでつながる世界、IoT。それらのセンシングデータのほとんどは、企業や個人の『閉じられた』プラットフォームに留まっており、他者が自由に活用することはできません。そこでオムロンは、株式のように企業や個人の間でデータが流通している『センシングデータ流通市場(SDTM:Sensing Data Trading Market)』を創造しようとしています」と李氏。世界中のセンシングデータを自由に入手できたら、これまでにない新しいサービスやビジネスが誕生し、多くの社会課題を解決することができると、その可能性の大きさを語ります。

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もちろんまだ実現に向けての課題はあります。業界・分野を超える膨大なデータが流通するようになれば、その中から本当に必要とするデータを見つけるのも大変になります。それを解決するため、センシングデータの分類や属性などを記した、データ提供者と購入者それぞれが認識している語彙の差を吸収するための「辞書」を考えているといいます。「たとえばデータのマッチングには"IBM Watson"のようなAIも活用できる」と李氏。「データ利用者とデータ提供者のニーズをマッチングし、必要なデータを流通させる市場にAIが欠かせないのと同時に、膨大なデータの提供により、センシングデータ流通市場もAIの進化に貢献します」。

必要なデータを選び出し、人にとって価値ある情報に変換して機械をコントロールする「Sensing & Control」に取り組んできたオムロン。新しいサービスを創りたい人が、より簡単にデータとデータを結び付けられる仕組みつくりを進めます。『センシングデータ流通市場』は、オムロンだけでなく、産業界全体にとっても新たなビジネス創出のチャンスになるはずです」と結びました。

問題解決につながる「データ」はそもそも存在しない

大阪大学 大学院経済学研究科 准教授 松村 真宏氏

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"IBM Watson"や「センシングデータ流通市場」などIoTやAIによるデータ活用の可能性が示された中、続く大阪大学の松村真宏氏は、「データは決して万能ではない」という観点から問題を提起しました。

「例えば、あるデータを解析して『ある街にはポイ捨てが多い』という社会的な問題を発見したとします。しかしIoTを駆使してこの問題を解決するデータを探したとしても見つかりません。なぜならそんなデータはそもそも存在しないからです。すなわちデータは、世の中の数あるオープンな問題には対応できないのです。」と松村氏。

社会に存在する様々なオープンな問題を解決するために、松村氏が研究しているのが、「仕掛け」だと言います。「例えば『ポイ捨て』の話だと人がゴミを拾って入れたくなるようなゴミ箱をつくるなど、データから解決策を直接導き出すことは不可能でも、データを駆使して人が問題解決するための行動を生み出す『仕掛け』を作ることはできるのではないか。そう考え、研究しています」。

AIは人と人とのコミュニケーションを誘発する「仕掛け」にすぎない

東京大学大学院 工学系研究科 教授 大澤幸生氏

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最後に登壇した東京大学大学院の大澤幸生氏は、「『AIが人の仕事を奪ってしまうのでは』と危惧するのは時期尚早です」と口火を切りました。なぜならAIや、そのブレークスルーであるディープラーニングや機械学習には、明らかな限界があるからです。

「課題に対してソリューションを見出すには、データの量よりむしろデータの種類(変数)が必要です。ディープラーニングの限界は、自身が今手にしているデータと関連性が薄いと計算されるようなランダムなデータを取得できないことにあります」。

そう言う大澤氏は、まったく別の領域へと横方向に「ワイドラーニング」する技術が開発されていることを紹介しました。これによって初めて、一見関連性のない新しい変数を増やす機械学習が高速かつ、高精度で可能になるといいます。

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「変数のバリエーションをより多く入手するために、世界中に溢れる『オープンデータ』の効率的な活用や、企業や個人が蓄積している『閉じられたデータ』の発見が欠かせません」と大澤氏。膨大なデータの中から利用者が本当に必要なデータを見つける方法として、大澤氏が開発した「データジャケット」を紹介しました。「データジャケット」は、変数名や保存形式などを共有するためのデータの概要情報。利用者にとってそのデータが本当に価値あるものかを検討するための手段となります。

「AIはコミュニケーションを誘発する『仕掛け』にすぎない」と大澤氏。

「データドリブンビジネスとは、データをきっかけとして人と人とのコミュニケーションから生まれるもの。データ取引市場においても、重要なのは、データ取引の後にそのデータを用いてどのようなイノベーションを起こすか。そこで生まれるビジネスは、データ取引そのものによる利益とは比べものにならないほど大きなものになります」。

収集できない「閉じられたデータ」をいかに入手するか

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続いて、会場からの質問も交え、パネルディスカッションが行われました。

そこでデータの「量」の問題以上に議論の的になったのは、スピーチでも述べられた、「データ量は増えても、社会課題の解決に必要なデータの種類(変数)は増えていない」という課題。

「例えば、製造現場で人の不注意によって引き起こされる重大事故を防ぎたい、という課題の解決にどのようにAIを活用できるでしょうか?」という会場からの質問もあがり、それぞれの立場から議論を深めました。

大澤氏:「ディープラーニングで収集可能なデータで解決できるなら、AIが役立つでしょう。しかし事故は、まったく想定外の原因で起こることもある。そうしたAIのアルゴリズムが想定できないデータ(変数)を他から集めて問題を解決するのは極めて難しいです。」

松村氏:「問題解決に本当に必要なデータは、現状のディープラーニングはもちろん、大澤先生のおっしゃるワイドラーニングでは収集できないですよね。市場にない『閉じられたデータ』を収集するにはどうしたらよいでしょうか?」

大澤氏:「企業や個人が蓄積していて、容易には入手に出ないデータを市場に乗せていく仕組みとして、データジャケットがあります。」

李:「オムロンが構想する『センシングデータ流通市場』によって、今まで入手できなかった多種多様なデータ(変数)の収集を可能にし、社会の多くの企業のビジネス創造や社会課題の解決に貢献したいと考えています。」

データは人と人をつなげる「呼び水」。イノベーションを起こすのは「人」

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パネルディスカッションの後には、実際にデータの中から価値を発見し、新ビジネスやイノベーション創造のプロセスを実現するワークショップ「データ市場イノベーションゲーム(IMDJ)」が、東京大学大学院工学系研究科助教の早矢仕晃章氏(開催時点:大澤研究室の大学院生)のファシリテーションの下で行われました。

参加者はグループに分かれ、キーワードが線で結ばれた「データの可視化マップ」を前に、データの組み合わせから生まれる可能性を考え、社会のニーズを想定し解決策を検討し合いました。

「ある課題を解決するために必要なデータを一つ選ぶと、さらに欲しいデータが増えていく。その思考のプロセスを自分の目で追うことができたのが、おもしろかったです」。参加者からは、そうした声が聞かれました。

データはあくまで「呼び水」に過ぎません。データを介して人が出会い、イノベーションが生まれるところに本質はあります。AIの応用は今後もますます広がっていくでしょう。しかしAIは人の知識を拡張するためのツールであり、そこからイノベーションを起こしていくのは「人」でしかありません。オムロンは「センシングデータ流通市場」を通じて、イノベーションの創出に貢献していきます。

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