イノベーションの発信地 中国のモノづくり革新 ~”Made in China”を信頼のブランドへ!~

労働集約型の産業が蓄積し、かつて世界の工場と言われた中国。今、中国はスマートフォンなどの通信機器、ドローンや電気自動車など、新技術が生まれる世界にとってのイノベーションの発信地となっている。

イノベーションはこれらの新ビジネスだけでなく、工場における生産工程でも進行している。中国メーカーは生産プロセスの品質・生産性面でイノベーションを起こし、消費者から信頼を勝ち取ろうとしている。

全自動、生産性5倍、品質向上。どれも初めての技術開発。

138-001.jpg

例えば食品のモノづくりでは、人々に安心されるための品質を維持・向上させながら、多様なニーズに応える製品ラインナップを展開し、製造過程で起こる原料や包装パッケージの廃棄物を減らしながら採算を維持・改善するという難題に生産プロセスのイノベーションで挑んでいる。

ビスケットだと、原料をミキサーで練り上げ、生地をつくる。品種ごとに違う大きさや形の型に生地を流し、形をつくる。100mにもおよぶ長い窯のなかで移動させながら焼き上げ、さらに移動させながら冷ます。最後に包装しやすいようにならべて、決められた枚数や重さで袋に詰めて、箱に入れる。

この中でも包装機は自動化技術の腕の見せ所である。食品を包装フィルムで包み、熱を加えることでフィルムを封止する。求められる速度は1分間に100パック以上にも達する。

機械を高速に動かしながら、正確な位置で製品をつくりあげる。中国最大手の食品製造ラインで使う包装機メーカーはこの技術を更に進化させ、食品が出来上がってから全自動で包装する生産ラインを食品工場に提案しようとしていた。全自動で包装を行うことで人ではできないレベルの品質の安定と生産性を実現するためだ。

業界にイノベーションを起こす最高水準の生産性の追求。これまでの延長線上にない技術開発が求められる。この包装機メーカーはイノベーションを社内にだけでなく、社外にも求めた。

世界でモノづくり革新をサポートする、オムロンへの期待

138-002.jpg

今回取り組む全自動の包装ラインでは、製品をフィルムに入れて包装し、ロボットで包装された製品を掴み箱に詰め、箱に詰めた製品を段ボールに入れて出荷することになる。

この包装機メーカーは、包装機制御技術だけでなくロボット制御技術も持ち生産ライン構築の各工程でノウハウを提供できるオムロンを、業界を一新する技術開発のパートナーに決めた。

オムロンは、センサーからロボットまで幅広い製品ラインナップと、それらを組み合わせた制御技術にノウハウを持つ。この制御技術を使いこなし、顧客とともに革新的なモノづくりをつくりあげる「オートメーションセンター」を世界8拠点で展開。世界中の工場の最先端のモノづくり課題が顧客によって持ち込まれ、オムロンのオートメーション技術による解決に挑んでいるためだ。

このとき、彼らが計画していた新型の出荷まで、あと7か月しかなかった。

オムロンのノウハウを、顧客の現場で活かす

顧客とオムロンはつくりあげる生産ラインを7つに分けて、一つひとつの工程で解決しなければならない制御課題の整理を進めた。結果、25の課題が積みあがった。これら一つひとつを顧客と検証していく。

なかでも顧客がひときわ重要視していたのが包装工程の中でもフィルムを決められた位置でカットする技術。正しい位置で切れないと廃棄対象となるため、ロスとして工場の採算に重くのしかかる。この精度を99.8%まであげることが出来れば、ロスコストが20%カットされる試算になるという。

138-003.jpg

マークをセンサーで検出し、マークの真ん中でカットする。0.1mm単位の精度が必要だが、これをこれまでの5倍、フィルムの移動速度をあげながら実現することが目標となった。つまり、瞬きしている間にも何回もフィルムをカットしていることになる。

当時、オートメーションセンター中国の立ち上げを行い、中国のメンバーの育成も行っていた日本人メンバーである三原はこう振り返る。

138-004.jpg

「この装置のポイントは製品を搬送するコンベアの位置と、包装フィルムの位置を一致させることです。コンベアとカッターはモーターを回転させて動かしているので、それぞれのモーターの回転を一致させなければなりません。オムロンのマシンオートメーションコントローラを使えば最小0.5ミリ秒(1万分の5秒)まで一致できます。

しかし、出来上がった製品を見ると精度が出ていませんでした。どうしてもずれた位置でカットしてしまうのです。

そこで、装置を稼働させながら装置がどのように動いているかデータを収集しました。そうすると、モーターは理論通り動いていることが分かりました。にも関わらず、包装がずれてしまうのです。

私たちは基本に戻り、現物に注目しました。すると、包装機といえども中国の装置は一部分の作り方が他の国と違うと分かったのです。この違いが機械のクセになっているのではないか。私たちはそう考えました。

現物への注目はまだ終わりません。出来上がった製品の品質を200個以上一つ一つ測りました。そうして機械のクセを数字で表せないかと考えたのです。

結果は、予想通りある特徴を持って品質がばらつくということが分かり、この特徴をコントローラに教えるということをしました。ようやく、謎が解け、速度と精度の両立が出来たとき、顧客と私たち一同喜びましたね。」

生産性5倍で99.8%の正確性で製品を完成させる包装機。中国の大学の研究室が2年かけて出来なかったことを、顧客とオムロンは半年で成し遂げることが出来たという。

無謀とも思える目標をクリアできた本当の理由

138-006.jpg

オムロンの中国拠点で、この顧客との共同技術開発プロジェクトを率い装置出荷を終えた袁はこう語る。

「実はプロジェクトが始まる前、顧客のなかでも出来るかどうか半信半疑の人たちもいました。しかし、私たちが一つ一つ課題を解決することで、少しずつ信頼を獲得し、協力していただけるようになりました。最終的に今回のプロジェクトは顧客、顧客の協力会社、そしてオムロンが参画し、メンバーは合計38名となりました。

通常なら一年をかけて開発するくらい多くの課題に対して、半年で一度に開発を進めるため、多くのメンバーが役割分担をしながら開発を薦めました。プロジェクト管理表をつくり定期的に進捗を共有するプロジェクト管理は必須で、会社間のチームワークを発揮させることも重要なテーマでした。

技術的には、やはりマークカットの課題は最後まで難航しました。いくつかの方法を試しては失敗するという日が続きました。しかし私たちは失敗しているが、成功に近づいているとも感じていました。オムロンの技術を、中国の装置に適用することが出来れば、必ず解決できると思っていました。

最終的に顧客の期待に応えられ、顧客も喜んでいただけましたが、何より大切なことは、中国の消費者に高品質で安全な食品を提供する大きな一歩を踏み出せたことです。事業を通じて社会課題を解決する。自分たちが率先でき、誇りに思っています。」

そして今、新たなイノベーションをもたらすべく、次の技術開発が始まっている。それは一つの設備で増え続ける製品品種に可能な限り対応することだ。

わたしたち消費者の好みは多様化し、そして流行の波がある。この好みや流行の波に合わせて食品業界は製品の品種を増やし続けなければ、消費者を満足させることができない。一方で品種が増えれば、品種に合わせた生産ラインの改造が必要だった。これでは変化の激しいニーズに応えることが難しい。

ロボットをうまく使い、あらゆる製品をピックアップし箱詰めするという次のステージに向けて日夜、技術開発が続いている。中国は生産技術の分野でも最先端技術を生み出す、世界にとってのイノベーションの発信地となっている。

オムロンは、顧客の持つ難しい課題に向き合いながら『オートメーションで、モノづくりを革新し、世界中の人々の生活を豊かにする』という信念を今日も行動に移している。

関連リンク